ウエイトトレーニングとダンサー

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*この記事は2017年に書かれたものをよりわかりやすく、出典元のリンクを増やし2021年に大幅編集しました。

 

ウエイトトレーニング、っていうとダンサーは怖がっちゃうかもしれないですよね。

筋トレをしたら太くなるとか、身長が伸びなくなるとか…

 

年々、多くのバレエ学校やバレエ団がウエイトトレーニングを取り入れているのを見たことがあると思うし、そういうものがSNSにシェアされているのも見ていると思うけれど、

  • ダンサーには筋トレが必要ない(やったら太くなる系)
  • 筋トレしたら身長が伸びなくなるから辞めたほうがいい

という考えはまだ根強く残っている気がします。

 

今日はそんな古い常識と考え直し、21世紀に対応出来るダンサーとウエイトトレーニングについて考えてみましょう。

 

ウエイトトレーニングって何?

Clinical Sports Medicineによると

Resistance training (also known as weight training or strength training) involves using resistance to increase muscle strength, power and endurance.

It involves the use of free weights, weight machines, elastic bands or body weight.

と書いてあります。(revised 3rd edition P741より)

 

ウエイトトレーニング、レジスタントトレーニング、もしくはストレングストレーニングは、抵抗力を使って筋力、パワー、筋持久力を増加指せるトレーニングです。

フリーウエイトというのはダンベルとかアンクルウエイト、ケトルベルのようなもの。

ウエイトマシンというのはジムにあるマシンやピラティス、ジャイロのマシンも含まれます(だってスプリングは抵抗力だからね)

皆さんおなじみのエクササイズバンドや、自分の体重を使うものも含まれるそうです。

 

さ、ここで古い常識を混乱させましょうか。

  • 筋トレすると太くなるって嫌がるくせに、セラバンド使ってつま先伸ばすのは何百回もやるよね。
  • ウエイト持ち上げるのはダンサーに必要ないとかいうけどピラティスやジャイロは大丈夫なんでしょ?

一応それらすべて同じカテゴリのレジスタントトレーニングなんだってよ?

 

なんでウエイトトレーニング?

男性であれば女性を持ちあげても大丈夫なだけの力が必要です、ってのは今更説明いらないですよね?

でも、男性ダンサーでも、ちゃんと腕立て伏せができない人を見ることがありますが…

自分の体重をサポート出来なかったら、踊っている他人をサポートすることは不可能です。

→男性ダンサーのリフト用エクササイズ

 

じゃ、パドドゥをする男性ダンサーだけがウエイトトレーニングをやっているべきか?

そんなことはありません。

 

ダンサーのケガとレッスン以外のトレーニング・エクササイズの関係性はいろいろな研究で発表されていますが、最近のものだとこちら

 

ランダムに同じバレエ団のプロダンサー男女を2グループにわけ、1グループはコントロール(何も変更しない)、もう1グループはIPP(dance-specific injury prevention programs)を1年行ったと。

IPPの内容は30分のエクササイズプログラムを週に3回、52週間行った。

IPPをやったグループは82%もケガが減りケガとケガとの間も45%長かった(つまりケガの頻度と回数が減ったということ)。

 

ということで、バレエ以外のトレーニングをやることで性別やスケジュールに関係なくケガのリスクを減らすことが出来るってこと。

(この研究のIPPでどんなエクササイズをやったのか知りたい人は、リサーチページに書いてあります。)

 

 

2014年の来日ツアーでは「強ければケガしない」というスローガンでした。

ダンサーのケガの大多数が慢性(長期)のケガであり、

  • テクニックをこなせるだけの筋力がない
  • 練習量に耐えられるだけの筋持久力がない
  • 長時間リハーサルに耐えられるだけの集中力がない

というものがケガの原因です。

(もっとあるけどね…例えば食事量、睡眠量が間に合っていないとか、体のケアをしないとか…)

 

ただ闇雲に鍛えろ!ではないですが

  • 踊りで必要な部分をオフシーズンにしっかりと鍛え(ここにピークを持って来る)
  • 忙しくなるリハ期&パフォーマンス期に疲れてきても強さがある

という形に持っていくのがダンサーだけでなくスポーツ界でのトレーニングでは理想です。

 

ウエイトトレーニングをしたら太くなるの?

そんなことを言っても、ウエイトトレーニング、筋トレをしたら太くなるんでしょ?って思っているダンサーはまだたくさんいるよね。

 

正しいウエイトトレーニングをしていれば、不必要な筋肥大(=「不必要に」筋肉が大きくなってしまうこと)はありません。

「正しく」というのはトレーニングを受けているダンサー自身だけの技量でなく、内容を作っているトレーナーの腕にもかかってきます。

 

そのトレーナーが「正しく」バレエを理解している必要もあります。

結局、踊れるための体づくりがゴールなので「見た目で」こうやって脚をあげているから…みたいな形でトレーニングしたら意味がないし、

スポーツ選手のトレーニングを「そのまま」持ってきても意味がありません

短距離と長距離ランナーが同じトレーニングしないでしょ?それと同じで種目によって必要なことが変わるので、バレエを熟知していないとプログラムを作るのは難しい。

 

ただし、もちろん筋肉はつくので筋繊維のサイズは変わります。それは事実です。

 

でもこちらの研究を見てみましょうか。

研究で使われたダンサー数は少ない、1990年と古い、National Strength and Conditioning Associationに載っていたのでバイアスがないわけではないですが、

古い考えの先生方のために古いリサーチを見てみましょうよ。

 

7人の女性ダンサーにレッスン以外で週に3回、9週間ウエイトトレーニングをやってもらった結果、

同じく7人のやらなかったグループと比べ

  • 内転筋は15.1%強くなった
  • 横への股関節柔軟性が6.6%アップ
  • 無酸素運動出力が49.5%アップ
  • 筋持久力、バレエパフォーマンスやテクニックもアップ

でもNo increase in limb circumference was observed。

脚の太さに影響はなかったとさ。

 

皆さんが思っているより、筋肉のサイズを大きくするのって難しいんですよ。

特に女性だとホルモンの関係もありますし、食事量もかなり気を付けなければいけません。

 

それよりも筋トレ=太くなると考えている人は

  • ケガのリスクが高くなり、踊っていけないかもしれないけど「見た目」をとるのか?(指導するのか?)
  • 健康、安全よりも「痩せ」を崇拝している自分はどうなのか?

の2点を考えたほうがいいでしょうね。

 

ウエイトトレーニングをしたら(筋肉がついたら)身長が伸びなくなるの?

これもどこから来たのかわかりませんが、日本だけでなく海外でも昔言われていたようです。

こちらも嘘だよん、というリサーチがたくさんありますが、それをまとめてPhysioが記事を書いてくれているので出典元はそっちをチェックしてください。

 

ここからは勝手な推測にはなりますが…

幼いころから練習ばっかりしていると骨端線に影響するケガにつながります(これを成長期スポーツ障害といい、一般的に成長痛と言われます)

骨端線は骨の成長するラインのことなので、このエリアが傷つくような練習量やテクニック不足、そして運動量についていくだけの筋力がない場合、骨の長さに影響が出てしまうのはわかる気がしますよね。

 

また、レッスンを夜遅くまでやっていたり、ダイエットしている場合、

成長に使うエネルギーも、成長できる時間も限られてしまうため身長の伸びに影響するのではないかと。

コロナで休校になったときに、全国的に子供たちの身長が伸びたと報告があったのも忙しすぎる毎日がなくなったからと考えられます。

 

成長ホルモンは筋トレなど無酸素運動が下垂体に刺激を与えて分泌されるといいますし、健康体に正しく行ったトレーニングだったら、骨の成長にいい方向に影響するはずですしね。

 

 

若いダンサーが気を付けなければいけない事

よーし!じゃあ今日からウエイトトレーニングをがっつり取り入れよう!

と先走らないでくださいね。

 

スポーツ界ではウエイトトレーニングと年齢について気を付けなければいけないことが研究されています。

クラシックバレエダンサー「を」リサーチしたものではないかもしれないけど、基準としてみてみましょう。

(だってダンサーだろうが、サッカーやってようが、人間の子供というところは変わりないからね)

 

先ほどの本、Clinical Sports Medicineの741-742ページにはたっぷりとやっていいこと、やっていけないことが書いてあります。いくつか抜粋しますが、全体を読みたい方は出典元をどうぞ。

  • Resistance training programs should not be implemented without the supervision of a certified strength and conditioning professional.

  • The correct technique ust be taught for each exercise.

  • Resistance training should supplement rather than replace other forms of physical activity.

  • Maximal intensities should not be performed before the child reaches 16 years of age or Tanner stage5.

  • There should be a gradual progression in training intensity.

 

簡単な翻訳と()内にはバレエに当てはめた場合の意見を書いておきますね。

  • ウエイトトレーニングはしっかりと勉強したプロの元で行うこと(=バレエの先生や保護者がSNSを真似して出来るものではない)
  • 全てのエクササイズで正しいテクニックを使わなければいけない(=各エクササイズの正しい形が分っていないといけない)
  • ウエイトトレーニングがメインではなく、ほかの運動の補足として行うこと(=バレエレッスンはやっぱり必要)
  • 最大強度でのエクササイズは16歳以下では行わわれるべきではない(=ダンサーの出来るギリギリでトレーニングするのは16歳以上ってこと)
  • 徐々に強度をあげていくべきだ

 これらは「うんうん」って読んでもらえると思うんですが最後にピックアップした点は特に大事だと私が感じるので別途で書きますね。

 

  • The maximum number for formal training sessions per week, including resistance training, for children up to 12 years of age should be 3, each having a duration of no longer than 90min. For elite athletes, total training load may vary according to the sports and level of competition. However, resistance training should never exceed 3 sessions per week.

  • 12歳以下の子供の場合、全てのトレーニングセッションは週に3回で1セッションは90分以下であること。エリートアスリートの場合、そして大会のレベルによってトレーニングの内容やレベルは違うかもしれないが、それでもウエイトトレーニングは週に3回を超えないように。

ここでは「formal training session」と書いてあるので実はレッスン回数も習い事レベルで週に3回、プロを目指していたらそれより多いかもしれないけど、エクササイズクラスは週に3回となっています。

 

 

まとめ:ウエイトトレーニングをお勧めする人たち

いろいろと説明してきたけれど、まとめてみようか。

  • ウエイトトレーニング(レジスタントトレーニング)はけが予防の面でも、テクニック上達の面でもとても素晴らしい!
  • ただし勉強した指導者の元で、年齢やレベルに合わせた量を行うべき
  • 具体的には12歳以下であれば週に3回以下、難しいトレーニングは16歳以上

 

補足として「自重エクササイズならケガしないよ」「自重ストレッチなら大丈夫」と言ってくる人がいるのですが、

これらも最初に見たように「ウエイトトレーニング」に入ります(自分の重さ、って書いてるんだからね)。

よって、

  • 年齢
  • 正しいテクニック
  • 的確な指導者

はフロアエクササイズでも、ジムでも、ストレッチでも必要だということを頭に入れておいてください。

 

最後に。根も葉もないうわさ話はちゃんと検証すること!

 

<Extra resourse>

→ボディコンディショニングは何かを勉強してみる記事

→DLS公認インストラクターリストはこちら

→毎週日曜日に私とオンラインでエクササイズが出来るボディコンサークルはこちら

 

Happy Dancing!

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