*このブログは2013年に書かれたものを2020年に大幅加筆修正しました。
バレエダンサーだったら、タックまたはタックイン、という言葉を聞いたことありますよね。
だいたいは「タックインしないで」って感じで否定形で使われますよね。
でもさ、直そうとすると「おしり出さないで」「おしり入れなさい」とか言われるじゃない?
困っちゃうよねー。
「ダック」という言葉を聞いたことのある人はあまりいないと思います。,私が勝手につけちゃったので。
分かりやすいかなーと思って13,14歳の生徒に解剖学を教えた時に使いました。
その子たちはもう大きくなっているのに、未だに真面目な顔でタックだか、ダックだかと言っています。
骨盤のプレースメントおさらい
なんでタックだったりダックだったりお話しているのかって?
骨盤のプレースメントを理解するためにはとっても大事だから。
なのでこれ以上進む前に骨盤のプレースメントについて復習しておきましょう。
詳細はこちらの記事で読んでもらうとして、大事な部分の箇条書きだけ付けておくね。
- 骨盤はテクニックの発祥地です。
- 骨盤の前の三角形を意識する事で、正確な骨盤の場所が理解出来ます。
- 骨盤の前の三角形を作る骨の出っ張りは恥骨結合と左右の上前腸骨棘(ASIS)。
もちろん、踊っている時にこの三角形を真っすぐ固定している訳ではないですが、
基本の姿勢である、立位、バレエスタンスが出来ていなければ動けないでしょ?
スタート地点がズレているんだもんね。
なので、今日は正しい骨盤のプレースメント、と言ったらスタンスの時だと思って下さい。
どうしてプレースメントが大事なのか?という部分はこの記事で説明しているので今日はお話しません。
大事だと分かったうえで読み進めてください。
タックとは何?
タック、タックイン、tuck…
この言葉をスタジオで言われた場合、解剖学的には骨盤後傾(こつばんこうけい・posterior pelvic tilt)の事を指しています。
三角形でお話すると、左右のASISが恥骨結合よりも前に出てしまうっていう状態ね。
ちょっとタックから、すんげータックまで様々なタックが存在します。
ダンサー人口だけ見ると、タックの方がダックよりもはるかに多いです(佐藤愛調べ。よって研究が出ているわけではない)
タックになりやすい人の「傾向」として
- バレエスタンスが理解出来ていない
- 骨盤を正しいプレースメントに保つ筋肉が弱い
- 腰椎をキープする背中の筋肉が使えていない
- 腹筋が弱い
- ハムストリングスが硬い
- 重心が後ろに落ちてしまっている
というものがあります。
「傾向」って強調したのは「絶対」ではないから。
なのでこれに当てはまらないけど、タックちゃんという人は多くいますよ。
例えば
- 膝が過伸展し、股関節前の靱帯に乗っかって立つ体の柔らかいダンサー
- 慢性的な腰の痛みを持っていて、ついつい庇う姿勢で立つ
なんて感じで、過去のケガや骨格からタックにした方が楽な人達もいます。
こういう人達ほど、タックを直したいんだけど、楽なんだよねーだから辞められない。
バレエスタンスが理解出来ていない、っていうのはダックでもいえる事なのでこの後別途説明します。
ダックとは何?
ダックという言葉で説明されることはないだろうけど、
- でっちりを直して
- おしりを入れて
なんて言われる姿勢の事を私はダックと呼んでいます。
理由は簡単、ドナルドダックのように、しっぽの骨が上向きになってしまっている状態の事です。
解剖学的にはさっきの反対で、骨盤前傾(こつばんぜんけい・anterior pelvic tilt)の事を指しています。
三角形でお話すると、恥骨結合が左右のASISがよりも後ろに引けてしまうっていう状態ね。
ダックになりやすい「傾向」として
- バレエスタンスが理解出来ていない
- 骨盤を正しいプレースメントに保つ筋肉が弱い
- 腰の筋肉が硬い
- 腹筋が弱い
- ハムストリングスが弱い
- 重心が前に行きやすい
などがあります。
あれ?ほとんどタックと一緒じゃない?と気づいた方、おめでとうございます。
そうなんです。
タックだろうがダックだろうが骨盤のプレースメントが正しくないという事実には変わらないわけで、
骨盤のプレースメントを正すために必要な知識、筋肉がなければタックだったりダックだったり、
もしくは動きによってタックダック混合型になる、灰色熊な可能性もあります。
おしりのサイズとダックは関係ない
ここでお話しているダックは、あくまでも骨盤の話をしているので、おしりの話とは違う、というのを指導者は特に頭に入れてください。
おしり、というのは臀部の筋肉(+脂肪)を指します。
ダックというのはしっぽの骨、と説明したように、骨盤の話です。
覚えてます?
この記事で骨盤の骨は3つ、寛骨2つと仙骨だって説明したの。
仙骨と尾骨はくっついているので、骨盤の一部としても、仙骨のつながりとしても尾骨があります。
尾骨、つまりしっぽの骨ね。
だから
おしりの筋肉が発達している=ダックでもなければ、
おしりが大きい=ダックでもありません。
骨盤をタックにする筋肉の代表は大臀筋なんですよ。
おしりが大きい=タックにしなきゃ=ぎゅー!!としていたら
結果として大臀筋を育てている事になりますからね。
おしりが大きかろうが、大臀筋が育っていようがケガに繋がりません。
強い臀部の筋肉っていうのは着地やプリエの衝撃吸収や安定にも繋がるので、ケガ予防と跳躍力の面からは上達するはずです。
体型、体の輪郭だけでバレエを見ないでくださいよ。
うわべだけを見るっていう言葉があるじゃないですか。
それそれ。
だから骨盤の前の三角形が正しい骨盤のプレースメントを探すときに大切なんですよね。
- 自分の前にある(=ダンサー自身が確認できる)
- 骨のでっぱりであり、体型に左右されない
- 1か所確認するだけで、上半身の一番下と、下半身の一番上を一緒に確認出来てしまう
幼児の場合はちょっと違う
もう一つ、指導者だったら知っておかなければいけないことは、
幼児の場合は骨盤の前の三角形を真っすぐにするというのは不可能な子もいるし、すごく難しいという事。
幼児に説明しても意味がないので、この部分は指導者向けに書いていきますね。
赤ちゃんはタックで、背骨はCカーブになっています(primary curveとも呼ばれる)。
その後、頭を持ち上げたり、ハイハイ、座る、立つなんていう動きと共に、私たちの知っている背骨のSカーブ(secondary curve)が成長していくんですね。
(英語でごめんね、日本語でなんというのか分かりませんでした)
Primary curveのCがSecondary curveのSに成長していくには筋肉が必要だそう。
頭を持ち上げる事で頸椎、体を垂直に保つために胸椎のカーブとバランスをとる腰椎のカーブが生まれていくんでしょう。
子供、特に幼児の成長は年齢だけで言い切れないところがあるため、バレエの先生として知っておきたい事は、
- 骨盤の成長を見たように、背骨のカーブも成長するという事実
- 骨盤の前の三角形を真っすぐにする事自体がエクササイズであり、難しい
という2つを頭に叩き込んでおいてください。
そうすれば幼稚園クラスで
- ギューギュー押すストレッチ(骨盤の記事で見たように、骨が形成されていない)
- 片手バーなど難しい動き(真っすぐ立つのでさえ、練習が必要な子たち)
などが見られなくなるはずです。
くれぐれも、足のアーチを持ち上げて!とか足首ロールインしないで、など言わないように。
その子たちの年齢では足の裏にアーチありません…(土踏まずなど足のアーチも成長過程で育っていきます)
骨盤のプレースメントがずれているほかの例
実は骨盤のプレースメント問題はタックとダックの2種類だけではないんです。
- 骨盤ローテーション系
- 骨盤高さが違う系
なんていうものもあります。
もっと面倒な事言ってもいい?
タックダックは正反対の動きだから同時に起こる事はないんだけど、ローテーション系、高さ違う系は一緒に起こる事があります。
例えば
- タック、右の腰骨の方が高くて、後ろに引けている
(骨盤後傾+回旋+傾斜)
なんてお子様ランチにおまけのおもちゃがつく!的な面倒なケースもあります。
間違う方法は何百通りもあるのよ。
だけど正しい、は一人の体につき1つ。
だから骨盤の前の三角形を覚えておけば、全ての骨盤プレースメント問題に立ち向かう事が出来ます。
タックの隠れ場所
タックは一見(正しくはないけど)引き上げて立っているように見えるため、そして時々タックダンサーの方が好きな先生がいるため、
タックはスタジオの日の当たるところに絶対に存在します。
- おしりを入れるのが正しいと思っている
- 腰椎のカーブが存在してはいけないと思っている
- おなかを入れる=タックだと思っている
- ターンアウトとはタックをする事で「股関節を開いて」使うべきだと思っている
こういった人達がタックになっていきます。
知識不足、もしくは思い込みっていうのが見えますね。
ダックの隠れ場所
ダックはおしりが嫌いなダンサー達の中にはあまり見られませんが、ところどころで顔を出します。
例えば
- 5番ポジションにクローズするときにダック発動
- 早いパッセの動きで、膝を持ち上げたつもりが骨盤まで一緒に動いてしまって結果ダック
- アラベスクから1番を通過して次の動きに行くときに、脚は下ろしても骨盤だけ残ってしまった、残され骨盤ダック
- 感情豊かにアダージオを踊ろうとして、プリエで上体を大きく使っているつもりが骨盤アヒル
基礎が大事、という言葉は何度も聞いたことがあると思うけれど、
バレエのパも、基礎があります。
- ルティレの前にクドゥピエだし、クドゥピエの前に両足ターンアウトで立つ。
どこかの練習不足は骨盤のプレースメントにも影響しちゃいますよね(バレエステップへの知識が足りないとも言えますが)。
タックダック混合型
ここら辺でタックダック混合型も顔を出します。
多分ほとんどのダンサーがこれ。
- プチアレグロで脚力が足りなくて、プリエでダック、空中でタック
- 2番ポジションで膝を開かなきゃ、とタックに入り、戻ってくるときに反動でダック
- ”おしりを入れた”タックルティレからアチチュードデリエールに足が動く前に、骨盤だけ準備させちゃってダック
腰が痛くなるのも灰色熊です。
だって骨盤がタックに行ったりダックに行ったりしているという事は、
腰椎が様々な方向に、サポートなしで動いてしまっているという証拠だもの。
ダンサーは形を作るのが上手だし、嘘をつくのも上手。
そして先生に言われたことを真剣に聞いてくれます。
踊っている時に先生が注意を叫ぶときあるじゃない?
「おしり出さないで!」とか。
ダンサーがダックになる→先生が見る→先生が叫ぶ
という一連の動きの間に、ダンサーは次の動きに行ってしまっています。
そして、その言葉が聞こえた瞬間にやっている動きで注意を直そうとしてしまう。
注意をいうタイミングや、言葉選びは解剖学よりも大切でしょうね。
(ただ、解剖学的に体の構造が分からないと、注意のボキャブラリーが増えないってい問題もあるけど)
まとめ:タックとダックの狭間で
- 骨盤のプレースメントが間違っている事に変わりない
- タックダック混合型な可能性もあるので、私はOOって決めつけない方がいいかも
- 正しい知識は上達のために必要不可欠
- レッスンで出来ないなら自主練やエクササイズで補習(補修)してあげて
- 迷ったら…三角形に戻れ!
スタンス本にはもっと情報が載っているので、そっちも見てね。
タックダックの説明をすごく簡単にした動画もあるので、今日の内容が右耳から左耳に流れていった人はYouTubeから始めてみてください。
解剖学もバレエも、繰り返しが大事だからね。
Happy Dancing!