始めに(長いので笑)
無理やりストレッチ、つまりぎゅーぎゅーするストレッチだったり、
痛いところで止めるストレッチだったり、涙を流しながら伸ばすストレッチのことをここではお話ししていきます。
私がすごく大事だと思っているエリアなのでちょっと長くなってしまうのですが、
誰かの方法が悪い!とか悪者を作るための記事ではない事をまず最初に理解してください。
この部分、論争が起きることが多いので、できるだけ感情を取り払って書き綴っていきます。
解剖学的な事やテクニック的な事、そしてケガとストレッチについては腐るほど(笑)記事にしているのでお話しません。
ワガノワバレエのストレッチ
YouTubeではワガノワバレエを始め、ロシア系のすごく痛そうなストレッチが紹介されています。
でもワガノワの子たち、上手じゃない?って事は彼らみたいに舞台に立つためにはあのストレッチを行えばいいんじゃないの?
そう思う人も多いし、そういう質問もあるので、ここでは一番有名なワガノワを例にとっていきます。
1)オーディションプロセス
ロシア人だからターンアウトできる?という記事でも説明しましたが、すごい量のダンサーがオーディションにきて、年齢が上がるにつれてどんどん落とされていくのが、現状です。
つまり、元々体の柔らかい子だったり、才能のあると見込まれた子「だけ」、これらのストレッチを行っている、ということです。
町を歩いている人全員ができるのではなく、選ばれしものが、選抜された先生たちに指導されているという事実をお忘れなく。
ちなみにワガノワの先生たちは殆ど、その学校で生活し、ダンサーになり、指導についたエリートだという事もお忘れなく。
2)学校のレッスン内容
ストレッチビデオと同じような年齢の子たちのレッスンビデオを見てみると、素晴らしくスローなエクササイズを行って居るのが分かります。
年齢にもよりますが、あれだけストレッチしているのに、上げている足は90度以下です。
そして8カウント以上キープしています。
これは完全に筋トレです。
ストレッチする、という事は可動域を広げる、という事だけれど、その可動域を使う前に、筋トレをして体を作っているのが見られます。
クラシックバレエだけでなく、ロシアの伝統ダンスでも足腰を鍛える動きがたくさん含まれています。
コサックダンスを考えると簡単に頭に浮かぶと思うけれど、ふかーいプリエだったり、膝を曲げた状態でホールドする動きなど。
クラシックだけのクラスでなく、バーサタイルに体を使い、筋肉を育てているのが分かります。
もちろん、年齢が上がれば、キープする時間が短くなり、テクニックの難易度が上がっていくのが見られますが、
トウシューズを履けばスローなエクササイズに戻るし、毎年試験があり、生徒が落とされているという事実から、上達していない子たちが落とされている計算になります。
ストレッチを真似して、他の学校システムを真似しない、となると彼らと同じ質のダンサーを作るのは難しいのではないでしょうか?
舞台裏、卒業生の話
様々な舞台裏で働いたことがありますが、一番この記事に役に立つ舞台裏経験は、ガラパフォーマンスで、世界各国からすごく有名なダンサーたちを招いた舞台です。
セルゲイ・ポルーニンを知らない人はいないと思いますが、ロイヤルからは彼、スティーブン・マクレイなどプリンシパル級ダンサー、
ヨーロッパ、ロシア、アメリカの大きなバレエ団ソリストなどが参加していました。
この人達の練習風景や舞台裏、リハの様子などを見てきましたが、みんなストレッチしてました。
だけどすごい危険な動きや誰かに押されて行うストレッチは目にしたことがありません。
世界のトップカンパニーで、トップで踊る人達でさえやっていない、という事がどういう意味か?
それは本人しか知らないとは思いますが。
毎年、生徒たちが海外のバレエ学校やバレエ団に羽ばたいていっています。
この子たち、休みになるとバレエ学校にレッスンしに戻ってきてくれるので、
その時に色々な様子を聞くことができます。
ここ5年の卒業生たちがみんな口をそろえて言うフレーズは「ジム」。
アメリカだろうが、ヨーロッパだろうがジムに通うダンサーが多いそうです。
イングリッシュナショナルを卒業した生徒は、おとこの子たちみんな、学校が終わる5時、6時頃にみんなで近所のジムに通っていた、といっていましたし、
ローザンヌを経てヒューストンバレエバレエ団で踊り、今はnorwegian国立バレエ団にいる子は、ジムでウエイトトレーニングをする以外、他に何もトレーニングはしていないし、ケガもしてない、って言っていました。
この子たち、そしてカンパニーで踊っているダンサーたちがストレッチをしていないわけではないですよ。
ストレッチ自体が危険なわけでもないですよ。
最初に書いたように、ここでお話しているのは涙を抑えてのストレッチ、という事ね。
エビデンス不足
最近ダンサーの研究が増えているものの、これらの研究は「よりよく踊るにはどうしたらいいか」にフォーカスされています。
当たり前ですが、お金が出る理由はダンサーに、舞台に、カンパニーに貢献できるからです。
ただ、リタイアしたダンサーや、脱落していったダンサーのケガについて、の研究がされている事はありません。
子供を生んだあと、骨盤や関節に痛みがでることと、ストレッチとの関連性は?
45-60才で我慢できない股関節の痛み、そして手術は?
60才っておばあちゃん見たいに聞こえるでしょう?でもね、その後20-30年人生残っているんですよ。
クオリティオブライフ。生活の質についての研究は?
新体操、バレエというものを始め、オリンピック選手もそうですが寿命が短い仕事です。
という事は、残りの人生はダンサー人生の3~4倍だったりするわけ。
この部分の研究や、インタビューなしに、答えが出せるのか?私には分かりません。
(トレーニング、踊り=痛い、という感情が作られてしまった子供のメンタル面はどうなっているのか?だって分かりません)
私は脱落者です。
バレエのためにストレッチも始め、できることは全部やってきて、ケガして脱落しました。
そんな私の体を今研究している人は、私以外にいません。
飛行機にのっていて、股関節が痛くて立ちあがれない、という事も、昔痛めた腰椎のせいで、背もたれ無しの膝付き椅子に座りながらこの記事を書いている事実も、誰も研究していません。
ワガノワのビデオでも、世界のガラコンサートでも。
映っているのは脱落していない人達だけです。
救急車理論
救急車を知らない人はいないでしょうね。サイレンの音さえ違うものの、世界各国にあります。
救急車は事故、ケガした人達のところに向かう車なんて私が説明する必要もありませんね。
ただ、考えてください。
もし私たちが宇宙人で、地球を研究しているアウトサイダーだとしたら。
救急車が集まっているところにケガ、事故があるわけです。
それを「傍観」していたら「救急車=ケガ、事故」というつながりはできます。
ケガ、事故があるから救急車が来ているのか。
救急車があるから、ケガ、事故があるのか?
地球外生命体には分からないかもしれません。
災害の時は、救急車ではなく、普通の車にケガ人がのっている事もあるでしょう。
戦地だったら、ケガ人は放っておかれているかもしれません。
救急車がケガ人を作っている!と地球外生命体が判断し、アタックしちゃったらどうなるでしょうか?
ケガ人を運ぶシステムがなくってカオスになるかもしれない。
何を言いたいのか?というと、外から見ているだけでは。
全体像を考えず、一部を切り取っただけを見ていたら。
分からない部分がたくさんあるという事です。
結論:無理やりストレッチはすべきか?
じゃ結論は?というと、私個人としては上に書いた理由、そして今までDLSでストレッチに関して書いてきた記事たちに書いた理由から、無理やりストレッチは勧めていません。
また、古典作品や大手バレエ団の新作を見てみても、新体操のような柔軟性はバレエに必要ないのではないか?と思われます。
日本にはプロを目指していない子たちもたくさんレッスンに来ています。
バレエを習うために、指導するために資格やオーディションはありません。
毎日、バレエレッスン、ストレッチ、ポワント、という3つのクラスを一緒に受講できる時間の余裕もなければ、
若い子たちをフルタイムで、プロを育てるバレエ学校もありません。
バレエのケガへの理解やリハビリがどの地方でも存在する、なんてこともありません。
今まで見てきた脱落してきた素敵な生徒たちの人生を考えると、口が裂けても、おススメできません。
でもこれは私個人の考えですし、私の出会ったダンサーたちを研究した結果です。
世の中には私が知らないダンサーがたっぷりいますから。
私の限られた経験で、ダンサーとして活躍している子たちの中で無理やりストレッチをしたおかげでオーディションに受かった子はいない、ということです。
10年以上バレエ学校で指導している内容にはストレッチも含まれます。
だけどクレイジーストレッチと言われる無理やりなものはやっていません。
私の言葉を信じなくても大丈夫。
自分で考えてみてください。
情報過多のこの時代、私たちにできることは、「考えること」と「勉強すること」だけだと思うのです。
このゴールデンウィークに私と一緒に勉強し、考えたい人は
→生徒の安全について勉強したい教師の皆さんにオススメのSafe Dance Studioセミナー
→ストレッチや柔軟性をもっと深めたい教師講座M1&2を受講した方には教師が知っておきたい柔軟性講座
Happy Dancing!