*この記事は2017年に書かれた記事を最新の情報ともらった質問に合わせて大幅加筆修正しました。
今日は解剖学ではなく心のエクササイズについてお話しようと思います。
お題は「嫉妬心」。
ダンサーだったら感じた事のある感情だと思うし、演技する事もあると思うので脳科学の面から理解を深めていきましょう。
嫉妬ってそもそもなに?
DLS歴が長い人はご存知の様に、まずはdefinition=定義づけから始めることで皆が同じ言葉の「意味」を理解できるようにしましょうか。
デジタル大辞泉によると嫉妬とは、以下の2種類意味があるそうです。
- 自分よりすぐれている人をうらやみねたむこと
- 自分の愛する者の愛情が、他の人に向けられるのを恨み憎むこと。やきもち。
1番の方がバレエスタジオでは見られやすいですよね。
いい役に選ばれた友達に嫉妬する感情とか、コンクールで自分だけ予選通過できなかったときの感情とかそういうやつ。
でも2番も結構あるんです。
愛する人っていうのはちょっとオーバーかもしれないけれど、尊敬している先生が贔屓にしている生徒とか、
いつもレッスンでしっかり見てもらえるOOちゃんとかそういうやつ。
嫉妬した時ってどうなってるの?
自分より優れた人がいいなぁーと思う気持ち、先生に贔屓されててずるいなーと思う気持ち。
それだけだったら大きな害はないと思うでしょ?
でもそうじゃないんですよね。
2009年に米国科学誌「Science」に掲載された脳科学の研究によると
身体の痛みに関係する前部帯状回が心の痛みである“妬み”にも関与している
と分かったそうです。
更に
妬みの対象の人物に不幸が起こると、その人物の優位性が失われ、自身の相対的な劣等感が軽減され、心地よい気持ちになります。
この心の痛みの強い人ほど、他人の不幸が起きると痛みが緩和され、蜜の味と感じやすいことが脳科学的に示されました。
心に痛みを抱えた人は、その心の痛みを軽減するために、他人の不幸を喜んだり、不幸そのものを引き起こそうとする非道徳・非建設的な行動を取る場合があり、時には犯罪につながるケースもあります。
とついてきます。
負けず嫌いな愛ちゃんね、からイジめの加害者、犯罪者になる可能性があるという事。
人間的に嫌な奴になるという事が分かりましたね。
いつも比較されているダンサー達
嫉妬心、ライバル心、self pity…
そういう感情は残念ながらダンサーの生活にはついて回ります。
- オーディション
- 舞台の配役
- バレエ学校の試験結果
がよくある+嫉妬心や自己憐憫に陥りやすいイベントだと思うので、ひとつずつ取り上げてみましょう。
オーディション
オーディションで上手くいかなかったのは、相手(カンパニーやバレエ学校)が求めているダンサー像とあなたが合っていなかったという「だけ」でしたよね。
例)
- 身長がこれくらいの人を探している
- バッシングを受けたから急いで有色人種のダンサーをリクルートしている
- このエリアに強いダンサーが辞めたから、レパートリーについてこられるダンサーが欲しい
など。
だから、出来たらオーディションの「結果」とあなたの「価値」を切り離して考えてほしいんですよ。
配役
舞台の配役もその役のイメージに合っているか?で見られているかもしれないし、
ただ単純に衣装のサイズに合わせている可能性もあります。
(バレエ学校の場合はこちらも多い。衣装を作った時のダンサーの身長に合わせているので、新しい配役でいきなり身長の高い子を持ってくることが出来ない、など)
残念ながら人種と配役は深く繋がっているので(ちらほらと、カンパニーが21世紀のオーディエンスに求められる舞台を作ろうとしてくれているみたいだけど)
- アジア人がプリンスなんてありえない!
- くるみのチャイナの踊りは東洋人がすべきでしょ?
なんて世界もまだまだ存在します。
そんなことないでしょ、と思う人から、海外留学を考えている人まで分かりやすい言葉で書いてある記事を見つけたのでこちらにリンクをつけておきますね。
バレエに携わる有色人種としては大切な知識なので、是非自分でもリサーチしてください。
特に
- 未だにスタジオで生徒の肌を白塗りしている先生
- バレエをやりたかったら色黒だったらダメだと言っている人
- 海外留学を考えている子&保護者
上の2つはバレエに触れたばっかりの人達に間違った考えを与えないためにだけど、最後の1つは自分の身を守るため、という残念なシチュエーションのために。
他民族が仲良く住んでいるイメージのメルボルンに15年以上住んでいますし、バレエ学校のディレクターの一人がアジア人だった事、現在住んでいる地域は移民グループが多い場所である私でも、人種差別は日常的に目にします。
話がずれました!
今日は嫉妬とダンサーについて。
配役で言いたかったことは、ディレクターの趣味趣向や衣装などの予算も含まれてくるため、オーディションと同じように自分の価値とその日の結果を切り離して考える練習もしてくださいね。
試験結果
バレエ学校では絶対についてくる試験。
同じクラスに高田あかねさんがいたら…など学校試験の順位も運が影響するところがあります。
このインタビューでワガノワバレエ主席卒業の陽年君が試験の様子や発表について教えてくれましたよね。
学校試験の場合は比べるべき人は
- 前回の試験の自分と今回の自分
です。
例えば
- 前回は初試験だったので緊張してしまって、思ったように踊れなかった
- 当日アドレナリンで落ち着かなくて、今までクラスで言われてきた注意を考えられなかった
- 体の声を聞く練習をしてこなかったため、100%のコンディションで試験に参加出来なかった
という反省があったとしたら、今回の試験で準備しておきたいですよね。
このシチュエーションで他人に嫉妬していたらかなりマズイですよ。
バレエ「学校」は学びの場です。
自分を成長させる場で、自分の「課題」に目を向けられず周りと比べ続けているなら
肝心の「学び」が出来ていません。
バレエ留学はプロになるための通り道なはずなのに、コンクール(=競争)ばっかりやってきたせいで
学校に入った途端ゴールがなくなってしまうダンサーが多くいます。
今までは短い時間で「勝つこと」がゴールだったかもしれませんが、学校生活ではいくつもの科目と、成長過程やポテンシャルを見られるのですから。
バレエの先生だって嫉妬している
今までダンサーの事をお話してきたけど、バレエの先生でも嫉妬心をコントロールしなければいけません。
というか、バレエの先生「こそ」嫉妬心への理解が必要だと私は思います。
特に
- 自分のスタジオの生徒が減ってきていて気持ちに余裕がない
- 新しいスタジオなのに、生徒さん達が続々とコンクール入賞しているスタジオがあって妬みを感じる
- 昔はこれくらい生徒がいて、これくらい留学していたのに、最近結果が出ていないと焦っている
それぞれ対処法や考える事は違いますので、個別セッションではその人、そのシチュエーションに合わせて改善策を考えていくのだけど、
今日は、嫉妬している先生が与える生徒への悪影響を考えていきましょう。
研究で出ていたように
心に痛みを抱えた人は、その心の痛みを軽減するために、他人の不幸を喜んだり、不幸そのものを引き起こそうとする非道徳・非建設的な行動を取る場合がある
んでしたよね?
自分が劣等感のカタマリ、今まで競争世界で生きてきたからそれ以外を知らない生徒を指導していたとしたら
- 他のスタジオの生徒さんがコンクールで失敗したのを見て喜ぶ(その姿を生徒は見て学ぶ)
- 自分の生徒が先生の思う結果を出せなかったら「私に恥をかかせて!」など生徒に怒鳴る
- 他のスタジオに生徒が流れるのが許せなくて、毎日電話をかけたり、皆の前で文句を言う
などの行動を起こします。
残念ながら、上に書いた例は実際にDLSキッズや保護者用セミナーのフィードバックで聞いた話。
私の想像ではございません。
別にバレエの先生が完璧な人間でなければいけない訳ではないですよ。
でも「自分にそういう事があるかも…」と思ってしまった人は、気づいた今日から修復しましょう。
カウンセラーと話すとなると敷居が高いかもしれないけど、別にDLSでなくてもいいから、
個別セッションのように1対1で「よりよいスタジオ」を提供出来るように、そして自分の仕事を「楽しめるように」努力してください。
(努力なしにいい人間になりませんから…)
嫉妬している自分を発見したら?
私は体のケガの専門家なので、心のケガの専門家の意見を調べてみました。
この記事の心理カウンセラーの人のインタビューによると
嫉妬するには、実は条件があります。それは、相手が自分より格下ということです。格下と思っている相手が、自分よりも優れたものをもっていると思うから、嫉妬が起こるのです。
だそうです。
ということは、
- 相手と比較する事を辞める
- 人間関係に優越をつけるのを辞める
- 自分にとって一番大切な事はなにか?(ゴール)をクリスタルクリアにする
というのが大切なんでしょうね。
これは実はバレエのケガのリハビリでも同じことが言えます。
- OOちゃんは同じケガから4週間で復帰したのに、私はまだルルベも出来ない
- OO君は先生から贔屓されてるから、ケガしてもいい役がもらえる。僕はその分プッシュしないといけない。
というような相談、コメントはバレエ学校でケガした生徒と話していると絶対に出てきました。
特にネットでケガの情報とかチェックしちゃうと最悪なんだよね…
- 痛みをプッシュして踊るのが努力
- このサプリメントでケガ(病気)がこんなに良くなった
- このストレッチで痛みとサヨナラ
的なものを見てくると、「本当にやらなければいけない事」から頭が離れてしまいます。
ゴールは
- このケガを徹底的に治して、年末試験+公演の忙しい時期には全く問題がないようにしたい
- エクササイズでリハビリだけでなく、踊れない時期の筋力低下を出来る限り防ぐ
だったはずなのに…
よって嫉妬予防法として
- 人と比較するような事を辞める
- ゴールを明確に書き出す
の2つをお勧めいたします。
「比較するような事」とは
- SNSでアップデートを見ていると悔しくなったり妬みを感じる人をアンフォローする・ブロックする
- 気分が落ちている時は、バレエ雑誌や写真などを見ない
- スタジオでは鏡が見える場所ではなく、自分が集中しやすい場所でレッスンを受ける
という感じ。
そしてゴールを明確に、というのは「絶対に上達するトレーニング法はあるのか?」という記事でお話したスマートゴールね。
未来を変えられるのは自分だけ
確かに、
- 既に決まっている役やレッスンで先生に見てもらえていない、と部分は自分では変更できないかもしれない。
- 実力が他の子より劣っているというのも今現在の事実かもしれない。
- そう分かっているのに、嫉妬しちゃう自分がいるのも事実かもしれない。
でも、今の自分を変えなければ、未来の自分(=結果)も変わらないんだよね。
そしてself pityもそうだけど、嫉妬心も自分の頭の中で起こること、つまりあなたしか変えられない。
確かに、考え方の癖は直すのが難しいけど、でも不可能ではありません。
同じことを繰り返していたら同じ結果しか出ないのだから、10分タイマーをかけて
- 自分が今やっている、人と比較するような事(辞めたい行動)を書いてみる
- 今のゴールを明確に書き出す
だけやってみてください。
お金はかかりません。
Happy Dancing!