*この記事は2014年に書かれたものをより分かりやすいように図や説明を増やし、大幅アップーデートしました。
ダンサーにとって一番大事な筋肉とはどこでしょう?
答えは?「わかりません」
プライオリティ、とでもいうのでしょうか?
人間の体にとって一番大事な内臓器官はどこでしょうか?という質問と似ています。
小腸と大腸、どっちが大事か?私には分かりません…
確かにジャンルによっては強くなくてもいい筋肉、というのもあるかもしれません。
例えば、ヒップホップやブレイクダンサーにはクラシックバレエダンサーのような足首の可動域が必要ない、という事のように。
(その代わりにブレイクダンサーのような強い肩関節や腕の筋肉、首の筋肉はクラシックダンサーには使われなかったりしますよね。)
けれど、一番大事な筋肉ってどこでしょう?コアマッスルについてお話ししましたけど、コアさえ鍛えておけばOK?と言われれば答えはNoだし。
骨盤のプレースメントが大事だという話をしましたけど、骨盤についているお尻の筋肉が一番大事か?と言われるとそうでもない。
今日お話する大腿四頭筋とハムストリングス、どっちが大事か?という競争をしたいので一緒に書いているのではございません。
両方大事です。
たとえダンサーの多くが大腿四頭筋が嫌いでも、膝を伸ばしたかったら使わないといけないし、ジャンプのためには使わないといけないんだから。
大腿骨周りにはたくさん筋肉がある
大腿骨(だいたいこつ・femur)は体の中で一番長く、体積のある骨です。
イメージしやすいデフォルトな説明をすると(つまり正確な数値ではないけど考えやすい例として)
- 体=上半身(50%)+下半身(50%)
- 下半身=大腿骨(50%)+脛の骨たち(50%)
としたら
大腿骨は貴方の身長の25%ってことになるじゃない?
(Again! 正確な数値ではないし、個人差はたくさんあるけれどイメージしやすいために)
この大きな骨を、体の中心となる骨盤に繋げておくために、大腿骨周りにはたくさんの筋肉がついています。
大腿骨+骨盤でできる股関節は球関節という種類なので、色々な方向に動くため、大腿骨周りについている筋肉たちは複雑なお仕事をしてくれます。
球関節や股関節、骨盤とのつながり部分を説明したビデオはこちら↓
たくさん筋肉がついているけれど、その中でも筋肉の長さや大きさが大きいグループが
- 大腿四頭筋(4つ)
- ハムストリングス(3つ)
- 内転筋(5つ)
ダンサー界で一番嫌われているのが大腿四頭筋。
- 太ももを使うと太くなるから極力使わない事
- 太ももの筋肉を使わずに脚の後ろ側の筋肉を使いなさい
- 大腿四頭筋はダンサーには必要ない
昔よく言われていた言葉ですが、きっと今も勉強をしないバレエ教師の元で言われている事でしょう…
そのくせして、膝を伸ばせってギューギューストレッチさせる。
膝を伸ばすメインの筋肉って大腿四頭筋だってまだ分かんないのかね…
大腿四頭筋の名前と場所
嫌われ続けている大腿四頭筋の代弁をしていても仕方ないので、まずは名前と場所を見ていきましょう。
場所は分かるけど、名前は大腿四頭筋でしょ?
って思いますよね。
大腿四頭筋(だいたいしとうきん・Quadriceps Femoris)って実はグループ名なんですよ。
このグループの中に4つの筋肉が住んでいます。
- 外側広筋(がいそくこうきん・Vastus Lateralis)
- 内側広筋(ないそくこうきん・Vastus Medialis)
- 大腿直筋(だいたいちょっきん・Rectus Femoris)
- 中間広筋(ちゅうかんこうきん・Vastus Intermedius)
Again! 誰が一番大事か、ではなくて順不同笑
…とは言ってもクラシックバレエというジャンルで一番ひいきしたいもの、けが予防の面で鍛えたいもの、というと内側広筋なんですが…
ま、それは後日。
大腿骨にくっついている、4つの筋肉(=4つ頭がある)だから大腿四頭筋なんだね。
場所は大腿直筋「のみ」股関節を超えるけれど、
残り3つと合流して、膝蓋骨(しつがいこつ・patella)を超えて脛骨粗面(けいこつそめん・)という脛の出っ張りにくっつきます。
ここが引っ張られ、炎症を起こしたり、剥離骨折を起こすことを成長痛の代表でもあるオスグットシュラッター病というんですが、
成長痛についてはこちらの記事で、オスグットシュラッター病についてはこちらの記事で説明しているので、
保護者と指導者はそちらをしっかりと読んでください。
成長しているから、痛い、ではないんですよ。
話がズレた。
みんな一緒のところについているけれど、スタート地点はこんな感じ。
- 大腿直筋ー下前腸骨棘(AIIS)
- 内側広筋ー大腿骨
- 外側広筋ー大腿骨
- 中間広筋ー大腿骨
こんな難しい事を知らなくても、ダンサーだったら
- 大腿四頭筋は4つある
- 太ももの前にあり、膝のお皿を超えて、脛につく
の2つが分かっていれば上等です。
大腿四頭筋の仕事
大腿直筋は股関節と膝関節の両方を超えるので
- 股関節屈曲(デヴァンの方向に太ももを動かす)
- 膝関節伸展(膝を伸ばす動き)
をしてくれますが、
残りの子たちは
- 膝関節伸展(膝を伸ばす動き)
をしてくれます。
よって、レッスンでバットマン・ジュッテやフォンジュのデヴァンをしたときに、太ももの前側(大腿四頭筋エリア)を感じても全く問題はございません。
正しいです。
股関節の前に力が入るのも、貴方がダメなダンサーだからではありません。
だって大腿直筋はそこにあるから。
プリエで長くホールドしたり、片足で着地したときに大腿四頭筋が働いても大丈夫。
だって
プリエでホールド=膝関節の屈曲で止める
=膝を曲げる筋肉と、膝を伸ばす筋肉の両方が一緒に働かなければいけないから。
ハムストリングスの名前と場所
大腿四頭筋の話は今日はここまでにしておいて、トピックを大腿骨の裏側、ハムストリングスに持ってきましょう。
ハムストリング?
ハムストリングス?
どっちが正しいかというと、正確には3つある筋肉なので複数形でSがつきますが、日本語の「ス」のように強調して発音しないのでどっちでもいいんじゃないでしょうかね。
どっちだって通じるでしょ笑
ハムストリングスもグループ名で3人の筋肉たちが所属しています。
- 大腿二頭筋(だいたいにとうきん・Biceps Femoris)
- 半腱様筋(はんけんようきん・Semitendinosus)
- 半膜様筋(はんまくようきん・Semimenbranosus)
ハムストリングスたち全員がスタートしているのは坐骨ですが、
大腿二頭筋のみ、名前通り頭が2つある変なヤツなので坐骨と大腿骨の後ろ側にもついています。
フィニッシュの点はこんな感じ
- 大腿二頭筋ー腓骨と脛骨の外側
- 半腱様筋ー脛骨
- 半膜様筋ー脛骨の内側で鵞足と呼ばれる部分
ダンサーだったら
ハムストリングスは3つあって、坐骨から脛についている。
だけで十分でございます。
バレエ界ではハムストリングスは伸ばせば伸ばすだけいい!みたいな風習があり
レッスン前にとっても念入りに(=親の仇のように)ハムストリングスを伸ばす人たちがたくさんいます。
無理やりストレッチのせいで、特に成長期のダンサーではさっきちょっとお話したオスグットのように筋肉の付着点のケガに繋がることがあります。
- 坐骨の剥離骨折
- 坐骨付近の炎症
とかね。
DLSブログやセミナー、ライブビデオでもなーんどもお話していますが、
ストレッチがダメではないです。
でも
- タイミング
- 方法(やりかた)
- 必要か否か
がありますので、しっかりと勉強してくださいね!
ハムストリングスの仕事
ハムストリングスのお仕事は大腿四頭筋の真逆
- 股関節の伸展(デリエールの方向に太ももを動かすこと)
- 膝の屈曲(膝を曲げる事)
です。
だから親の仇のようにストレッチするんでしょうね。
ハムストリングスが硬いと
- デヴァンに上げずらい
- 膝を伸ばしづらい
というのは事実です。
一番分かりやすい筋肉の仕事=筋肉が縮むことだから。
でも、忘れてはいけないのは、
ブレーキとなる筋肉を緩めても、仕事をする筋肉が強くならなければ、結局仕事はされない。
という当たり前の事実。
ブレーキから足を離しても、アクセルを踏まなければ車が前に進まないのと同じように、
動きを作る筋肉が働いていなければ、踊りの中で使えません。
しかもレッスン前に静的ストレッチをすると、一時的に筋肉の出せる力が弱くなる。
つまり使いたいハムストリングスをスイッチオフしちゃって、
大腿四頭筋「だけ」が頑張らなければいけないシチュエーションを自分から作っている事になります。
ストレッチと筋出力など難しい話をしなくてもこう考えてみて下さい。
- 弱い筋肉と強い筋肉があったら、どっちを鍛えたいですか?
- あなたのハムストリングスと大腿四頭筋、どっちが強いですか?
- 貴方にとって、エクササイズをしたいのはどっち?伸ばしたいのはどっち??
まとめ:大腿四頭筋とハムストリングス、両方と仲良くなろう
- 大腿四頭筋は4つの筋肉で出来ているグループで、大腿骨の前にある
- ハムストリングスは3つの筋肉で出来ているグループで、大腿骨の後ろにある
- 大腿四頭筋は股関節屈曲+膝関節伸展をする
- ハムストリングスはその逆、股関節伸展+膝関節屈曲をする
- どっちも大事!
どちらかを毛嫌いしないでください。
大腿骨を介して正反対に位置するこの2つの筋肉グループたちは、お互いがお互いに頼っています。
プリエも、ジャンプの着地も、軸足も。
前(大腿四頭筋)と後ろ(ハムストリングス)の両方の筋肉が力を合わせて働いてくれています。
こうやって解剖学の知識が増えると
- レッスン前に何をすればいいのか?
- 努力の方向性は合っているのか?
が見えてきますよね。
しっかり勉強して、ケガせず効率的に上達しちゃってください。
今回の続きである大腿骨の内側&外側の筋肉についてはこちらから
ちょっとだけお話した内側広筋の大切さをもう少し説明した記事はこちら
エクストラリソース
もっと勉強したいダンサーはDLSオンライン学校の解剖学クラス3、大腿骨周りの筋肉と仲良くなろうをどうぞ。
大腿四頭筋が大事っていうのは分かるけど、外モモばっかり使ってしまうし、そっちだけ大きくなってしまう…
と悩んでいるダンサーはそちらのクラスで理由や対処法を説明しています。
ただし、解剖学クラスは1,2,3…と番号順に話が繋がっていますので、基礎から知りたい人は1からをお勧めします。
バレエ教師であれば、指導に必要なバレエ解剖学をまとめた「教師のためのバレエ解剖学講座」をどうぞ。
Happy Dancing!