今回は「オーディション前にケガをしてしまった人へのアドバイス」をテーマにしました。
ケガの種類、背景にある経済的・家庭的事情、そして夢を追う中で生まれる葛藤まで幅広くお話しました。
バレエ界やオーディションの現実、「踊れない状況」でできることとは?
ダンサーだけでなく、保護者や指導者の方にもぜひ聞いていただきたい内容です。
Transcript
毎年恒例の、フレンドケーション、つまり友達グループとバケーション中の佐藤愛です。
バケーションと言っても、別に海辺リゾートでゆっくりとしているわけではなく、
キャンプ場の一角で、友達グループ約20人くらいと2泊3日くらい、ゆっくりしている、的な感じです。
それでも、日常を離れて、1年ぶりに会う人達と、
いつもと違う目線や、会話のトピックと共に生活するというのは、
それなりに刺激的なものなんですよね。
多分、毎年恒例の来日セミナーに参加してくださっている皆さんも
こういう気持ちだったんじゃないかな、って勝手に想像しています。
いつもは、生徒達、保護者達とだけ話しているけど、
同じような先生たちと会話したり、違うジャンルの指導者とペアになったり。
いつもと違う目線や、会話があるからこそ、
自分の指導を、違う角度から見ることが出来るんだと思います。
たとえ、お話する機会がなかったとしても、他の人達の質問を聞くことで、
「私もそう思ってた!」と同感することもあれば、
「そういう問題もあるのかー」「そういう疑問が生まれるんだな」という発見もあったと思います。
私も、毎年来日セミナーはもちろん、DMなどでもらう質問から
そういう悩みがあるんだ!と初めて知ることができます。
今月のポッドキャストは正に、皆さんからDMでもらった質問というか、コメント
「本番前でケガしている人へお話してください」を
という種類に分けて深堀りしてみました。
ただし、「ケガしている」と言った場合の定義は、
マメとか巻き爪とかの外傷ではなく、
ダンサーに見られがちな、
- つま先を伸ばしたり、ルルベにすると痛い
- ジャンプの着地で痛い
- 足をあげたら股関節や腰が痛い
などを指し、
パンパンに腫れた捻挫や、骨折していたら、もしくは骨折の疑いがあった場合は
舞台に立たないという当たり前のことはカバーしないよ、と言ってスタートしましたよね。
最終回の今日は、オーディション前にケガしている人に向けて。
そしてこの中に、バレエ学校のオファーが来るような国際コンクールも含めていきましょう。
だって、これらのコンクールのゴールは、バレエ学校への奨学金やら、入学許可だと思いますから。
オーディション前のケガが一番手ごわい
オーディションについて、一番最後に持ってきた理由は、
このシチュエーションが一番手ごわいから。
まず、この質問をしている場合、プロレベルのダンサーだということです。
子役オーディションは、ここでは含めません。
そちらは、先週のポッドキャストでお話しているコンクールの方を参照にしてください。
だって、いくら有名なバレエ団だったとしても、子役で出ました!という内容が、
将来のオーディションで役に立つことはないからです。
とすると、プロを目指して練習している若手ダンサーとは
食べていかなければいけないから、今すぐに仕事が必要という人もいるでしょうし、
今は親のサポートを受けているけれど、
この仕事が決まらなかったら、踊る夢は諦めなければいけない、という人もいるでしょう。
統計的に見た時に、
バレエダンサーを目指せるという条件にいる人達は、
ある程度裕福な家庭に育っています。
ここで言う、裕福というのは
海辺に別荘とか、ハワイで冬休みとかそういう意味じゃなくても、
- 比較的安全で、安定した国に生まれ
- 幼少期からバレエを続ける財力があり
- 中高の時に、生活費を稼ぐためにバイトをする必要がなく
- バレエの講習会やコンクールに出られるだけのお金があり
- 病気やケガしたときに、治療を受けるだけの余裕がある
人達という意味です。
そして、それって世界的に見たら、裕福な環境になります。
DLSのインスタをフォローしてくださっている皆さんなら、
私が来日セミナーの度に、地元の小中学校の同級生と集まっていることをご存じかと思いますが、
同じ時代、年齢、幼稚園、小学校、中学校を過ごした仲間の中でも、
中学から、生活費の為にバイトして、
早く手に職をつけるために、そして、短い期間で済むので、専門学校に行って、
今は仕事を3つほど掛け持ちしながら、シングルマザーで子供を育てている人もいます。
彼女にも、夢があったそうです。
だけど、自分の夢に向かって勉強するというオプションはなかったから、
今は娘のやりたいことを応援できるだけの財力を持ちたいので、
仕事をたくさん掛け持ちしている、と言っていました。
私は大人になるまで、彼女がそういう環境にいたという事を知りませんでした。
なので、もしかしたらこのポッドキャストを聞いてくださっている多くの皆さんも、
周りが、自分と同じような環境にいるんだ、と勘違いしているかもしれないです。
私たち、バレエを続けられてきた組は、ラッキーなんですよね。
バレエだけでなく、自分の夢を追いかけてこられたというのは、本当に幸せな事なんだと思います。
子供の時は気づかなかったけれど。
なんで、オーディション前にケガしているダンサーへのメッセージで
この話をしているかというと、
同じように「オーディション前にケガしているダンサー」というカテゴリには、
様々な人達がいて、それぞれの立場があるということ。
そして、一生懸命夢を追いかける努力をしてきて、
ご両親が愛情と忍耐を持ってサポートしてくれていたとしても、
もしかしたら、このオーディション以上はサポートが出来ないという人もいるかもしれない。
という事実を考えていきたかったから。
ちょっと話はずれますが、
練習熱心じゃないから、レッスン量を減らすと思っている先生がいるみたいなんだけど、
レッスン回数と熱心かどうかは関係ないことがあります。
家庭内の問題の可能性も十分になるので、
そのような言葉は、スタジオで口にしないように気を付けてください。
熱心だから、レッスン回数を増やしたとか、
バレエがそんなに好きじゃないからレッスン回数を減らした、だけではないのですよ。
話を元に戻して。クラシックバレエのオーディションはお金がかかります。
地方組で、国内のオーディションに出るのはもちろん旅費がかかりますが、
海外オーディションを受けるためには、国際線、国内線、宿泊費、食費、ビザ…
などオーディション費用以外に多くの費用が必要です。
この大きな費用がかかるオーディション、プロダンサーになるには数ゲームになってきます。
1回のオーディションで上手くいかないのは当たり前。
オーディションツアーといって、1度ヨーロッパについたら、
1ヵ月くらい様々なオーディションを受けて帰ってくる人達もいますし、
今年上手くいかなくても、来年、再来年…とチャレンジしていくものなんです。
日本の保護者だけでなく、時々先生とお話していても、
バレエ留学すればプロになれると思っている人達がいるのですが、
それは事実ではありません。
ロイヤルバレエ学校の様に、ほぼ100%の卒業生がプロになるという学校もありますが、
そういう学校ですら、2年生でプロになれないだろう、と学校が思う生徒を大幅に削ります。
よって、最終学年の3年生に残った時点で、
すぐにプロになれるであろう、と目星をつけられた生徒達だけが残るのです。
バレエ学校の先生に気に入られて、知り合いのディレクターを紹介してもらったという人も存在します。
付属の学校の場合、そのままバレエ団に入る子達もいます。
でも、それはクラス全員ではなく、ほんの一握りです。
そうではない学校も多く、その場合は最終学年で、オーディションに出て回ります。
クラスの半分の生徒が休む理由が、オーディションだから、ということもあるそうです。
だから、さっきお話したように、オーディションは数ゲームになってくるってこと。
そして、オーディションに受からなかったのではなく、
それだけの数のオーディションに挑戦する気力、体力、財力がないと
プロを諦めるという子達がいるのです。
ケガしていたら踊れない
お気づきの様に、今お話してきた中には、ケガの話は出てきていません。
ケガで踊れなくなったダンサーは、オーディションにすら参加することが出来ないからです。
バレエ学校でケガしていたら、卒業出来ない人もいるし、
卒業しても、オーディションを何本も受けるだけの体ではない人もいます。
そして今日のテーマ、オーディション前にケガした場合、
そのケガをプッシュしてオーディションに参加すべきか、
それともここで諦めるか、の2択だけしかない子達も多く存在します。
最初にお話したように、金銭的な面で。
だからね、今月のポッドキャストで
ケガしていたら、コンクールに出ないとか、学校の先生と相談するとか、
地元の発表会に命を懸けず、ちゃんと休みなさいよ、という話をしてきたんです。
だって、最終的にここに行きつくから。
プロダンサーを目指していたら、オーディションはほぼ確実で、その場合、数を受けなければいけない。
つまり、それに耐えられるだけの体が必要だ。
早くからポワント履いていても、
地元のコンクールでバンバン入賞していても、
最後の扉、オーディションで踊れなかったら意味がないから。
とはいえ、オーディションとはプロになる第一歩で、
最後の扉ではなく、社会人としての1歩なので、そちらも考える必要がある。
だから私は、絶対に、未成年だったらケガをプッシュさせることはすべきでないと思っています。
彼らの夢を叶えるために、本当に必要なものが分かっている先生だったら、
地元のコンクールや発表会なんて意味がない事を知っているはず。
長期戦で、金銭的にもサポートをしなければいけない保護者だったら、
治療費がかさんだり、手術になったり、リハビリしたり、という部分の出費はもちろん
コンクールやトウシューズ、先生への謝礼などがかさみ、
夢に手が届く一歩前で「ごめんね、これ以上はお金が出せない」となってしまったら悲しいからです。
自分に聞くべき質問集
だから、DLSは生徒の安全と将来の健康を第一に考えるレッスンが当たり前になるようにと掲げています。
今回来日した際に、人によっては
「DLSをフォローしている先生たちのところでは、コンクールとか結果を出してないじゃない」
と言ってくる人がいるという話を聞きました。
コンクールで何位でした、とか留学しました、とかを結果だと思っている人達は
それでも良いのだと思います。
その方が、スタジオも安泰でしょう。
指導者賞ももらえるでしょうしね。
でもね、私はバレエ学校で、生徒を受ける方を10年以上やってきました。
つまり、「OOちゃんの留学が決まりました!」の続きを見てくる方の仕事をしてきました。
なのでバレエ学校に来た子達の、その先を知っています。
ケガの為、その子の夢は途切れたとしても、
そのスタジオの留学者数は減らないし、一度もらった指導者賞はなくならないでしょう。
しかもさ、指導者賞ってどういう指導をしていたか?を見ていたわけではないのだから、
ある意味、生徒に手を挙げて、暴言を吐いていたとしても、
賞がでるってことだよね?当日の舞台の結果がよかったら…怖いよね。
何を「結果」と捉えるか?によって、
その人の真意が見えるんだと思います。
私にとって、未成年だったら特に「結果」とは、
- 彼らが自分の体を理解できるようになること
- 彼らがエビデンスベースに考えられる知識を身に着けること
- 彼らが笑顔で自分の夢と向き合えること
- 彼らが、たとえバレエを離れても、ここで学んだことが役に立ったと感じてもらえること
だと思っています。
では、バックグラウンド話はここまでにして、
本題のオーディション前にケガしているダンサーへ。
最初にお伝えしたいのは、「そのオーディション、必要?」
周りに流されず、冷静に、時にはメンターや信頼できる先生と対話して
Q:このケガで、このオーディションにチャレンジするのは自分にとって、プラスになる行動なのかを考えてみましょう。
Q:もし、地震とか台風などで、このオーディションがキャンセルされた場合、次には何を行いますか?
来年を待つとか、ほかのオーディションを探す、とかの答えが出てきた場合、
同じように、今回も来年を待つとか、ほかのオーディションを探すという答えが出てくるのではないでしょうか?
Q:もしこのオーディションが来年に延期されたら、何をして過ごしますか?
ケガの治療に専念するとか、リハビリとテクニックの基礎を見直す、とかの答えが出てきた場合、
今そのような行動をとらず、延期になった場合だけやるのはどうしてでしょうか?
Q:もしこのオーディションに受かったら、ケガのことをディレクターに話しますか?
YESの場合、なんて言いますか?
NOの場合、なんでですか?
この部分は、エピソード556 シーズン中&留学中にケガしている人へのメッセージの
コミュニケーション部分も参照にしてください。
Q:もしこのオーディションに受からなかったら、次は何を行いますか?
バレエを辞めるのであれば、どうして?
他のチャンスを探す予定なら、どうして今回のオーディションに出るの?
正しい答えはありません。
自分にとって適切な答えを、今ある知識の中で探すしか方法がないと思います。
時間をとって、じっくりと考えてみてください。
オーディションというビジネスがある
数年前英語圏で話題になった、オーディションというビジネスについてもお話しておきます。
費用を払う形のオーディションが開催されました。
ですがオーディション後、カンパニーから発表された内容が
「今年は空きがないので、誰も取りませんでした」というもの。
これに対し、ダンス界の一部が
- 空きがないなら、どうしてオーディションを開催したのか?
- ダンサーからお金をとることが目的だっただけじゃないか?
とSNSで投稿し、話題になりました。
残念ながら日本語にはなっていなかったと思います。
オーストラリアもそうですが、日本のように島国から
高い国際チケットを買ってオーディションに行くのは、必死の覚悟が必要です。
だからこそ、オーディション情報を「賢く」集めるようにしましょう。
今ケガしているなら特に、そのオーディションについて調べてありますか?
過去の様子、選ばれる数、必要な条件などチェックしてありますか?
バレエ学校時代のオーディション話その1
日本人生徒で、他のオーストラリアの生徒達と一緒に、国内のオーディションを受けに行った子がいました。
そして彼女は、研修生のポジションをゲットしました!
ただ、その書類サインの段階で、日本人でビザがない人は受けられないと分かったんです。
国内とはいえ、広いオーストラリアでは
何時間も飛行機に乗り、会場に行かなければいけません。
ケガをプッシュしてオーディションに行った子ではなかったですが、知っておけば避けられたこと。
バレエ学校時代のオーディション話その2
海外のカンパニークラスを受けるように話をつけていた生徒。
そう、オーディションではなく、個人でカンパニーレッスンを受けて
踊りを見てもらうというオプションもあるんですよ。
日にちも決まり、飛行機も宿も準備して、1週間前に確認メール。
その際、相手側から「カンパニーはその期間ホリデーです。クラスはありません」と言われました。
格安チケットだったので、返金もなく、彼女はその場所にホリデーに行きました。
もちろんオーディションは出来ませんでした。
なので、オーディション前にケガしているダンサー達、
このケガで、このオーディションをプッシュすべきかを、冷静に考えてみてください。
本当なら、ケガしない体を育てておきたいですよ。
予防出来るケガは予防して、小さい痛みを放っておかず、
オーディションのような人生を変える大きなイベントには100%で挑みたいですよ。
しかも、人生を変える大きなイベントなんだから、
ちゃんと調べておきたいところですよ。
でも!
過去には戻れないのだから、今出来ることとして、
自分に対する質問と、オーディション情報の見直しは強くお勧めします。
ダンサーとしての価値とオーディション準備
どんな結論に行きついたとしても、覚えておいてほしいことが1つあります。
それは、あなたがオーディションに受からなかったとしても、
ダンサーとしての価値は変わりません。
- 空きがなかったら、雇ってもらえなくて仕方ないです
- アジア人が嫌いだったら、そんなところで働きたくないです
- オーディションで上手くいかなくても、統計的には、オーディション参加者の殆どが上手くいかないんですから心配しないように。
ダンサーとしての価値、そして人間としての価値は変わりません。
貴方が何を選んでも。
ただ、ケガしている上で受けると決めたなら
徹底的に、出来るところまでリハビリとエクササイズを行ってください。
レッスンは今は不要かもしれません。
間違った癖で、ケガを酷くする可能性がある動きより、
100%ケガを悪化させない方を選んだ方がいいでしょう。
もし、オーディションのために体を絞るなんて考えていたら
ケガを直すためには、栄養が必要で、
その栄養は食事からしか摂取できない事を忘れないようにしましょう。
将来の健康の為にも、体重計は捨てるように。
筋肉は脂肪より重いのだから、体重計の数字でダンサーの良さを調べることは出来ません。
もし、オーディション費用の為に体を使うバイトしているなら
ケガを直すことの方が優先だと忘れないでください。
メルカリでもなんでもいいから、不要なものを売って、
ケガを酷くしない行動だけを選びましょう。
指導をしているなら、辞めた方が良いですよ。
オーディションするんだったらね。
ということで、シリーズ最終回はオーディション前にケガしているダンサーについて
お話してみましたが、いかがでしたでしょうか?
途中でお話した
「DLSをフォローしている先生たちのところでは、コンクールとか結果を出してないじゃない」
と言ってくる人の話を聞いた時、
私は、希望と喜びで胸がいっぱいになりました。
だって、DLSの内容から、スタジオ方針を変えてくれた人達がいて、
それがアンチの目に留まるくらいのサイズになっているということでしょう?
凄く嬉しかったです。
そして、全国にいる小鬼たちが頑張っている証拠でもあるんじゃないか?
と勝手に思っています。
4期生も終了し、5期生準備に入っているDLS公認スタンスインストラクターコース。
この前DMのやり取りをしていた小鬼が
「早速、小鬼のOOさんとXXにサポートをお願いしました。
コースの最初、先生は同業者でライバルとしか思えなかった感情が嘘みたいです」
と言っていました。
私が思うコース最大の魅力は、今月のテーマでもあった
ケガしているダンサーを理解し、ケガを予防出来るようなエビデンスベースの知識なんですが、
コース生達が口をそろえて言うのは、一生の仲間が出来たという言葉です。
オーディションもケガも、一人で向き合っていると、とても辛いと思います。
周りに分かってくれる人がいないし、親からは踊るのは辞めたら、と言われるし。
だけど、周りに理解してくれる人がいるって感じるだけで、
前向きになれるし、頑張ろうと思えると思う。
DLSの情報が、舞台前にケガしているダンサーへのサポートになっていたら嬉しいです。
そしてもし、一緒にダンサーサポートをしたいと感じている治療家やトレーナーの皆さんがいたら、
自分の生徒をよりよくサポートしたいと思っている先生がいたら、
DLS公認スタンスインストラクターコース5期生の資料請求をお忘れなく。
約10ヵ月間、一緒に勉強出来るのを楽しみにしております。
では、また来週金曜日のポッドキャストでお話しましょう。
Happy Dancing!
佐藤愛