今回は、プロダンサーやバレエ学校の生徒がシーズン中にケガをした際の対処法について掘り下げます。
発表会や公演に命をかけるべきではない理由、ケガを悪化させないためにできることについてお話します。
ケガをした時、舞台に立つべきか、それとも降板を選ぶべきか?
考慮すべきポイントや、実際のバレエ学校・カンパニーでの対応例もご紹介!
Transcript
サマータイムも終わり、日本との時差が1時間に戻ったメルボルンより佐藤愛です。
サマータイム、正式にはデイライトセービングと呼ばれるものは、夏時間は太陽が出ている時間が長いから、
朝を早くしよう!というなんともビックリな考え方のもの、1時間朝が早く来るようになります。
なので、通常は日本より1時間早く朝が来るメルボルンが、2時間早く朝が来るようになるんですね。
でも、州によって取り入れるところと、取り入れないところがあるため、
国内の時差も変わるという、なんとも面倒なシステムです。
廃止したらいいという意見が多いところですが、
私もクラスの時間を間違えるんじゃないか、とびくびくしているので、廃止してほしい一人ではあります。
さて、今月は皆さんからもらった質問を掘り下げていくよーということで
「舞台前にケガしている人へメッセージをお願いします」という質問というかリクエストを
様々な角度から研究しています。
先週は、「発表会前にケガしているダンサーへ」というテーマでお送りしましたが
いかがでしたでしょうか?
厳しめの、鬼の愛語録もあったとは思いますが、
バレエのケガの80%以上は慢性のケガで、それって知識があれば防げるケガ。
だからこそ、今ケガしていなかったとしても、ポッドキャストを聞いて勉強しておいてほしいなと思います。
さて、今週は、プロダンサーでシーズン中にケガしている人、
そして留学中にケガしているバレエ学校生徒へのメッセージを取り上げます。
もちろん、学生とプロでは立場が異なりますし、
バレエカンパニーもサイズによって、医療システムがしっかりとしているかどうかが異なるのですが、
先週同様、みんなが使える知識を選んでみました。
先週も言ったけれど、大事なことだから再度言うよ。
パンパンに腫れた捻挫や、骨折していたら、もしくは骨折の疑いがあった場合は
舞台に立たないという当たり前のことはカバーしません。
本番だからしょうがないって思っちゃったら、
それは子供の場合虐待で、
カンパニーがそれでも踊らなかったらクビにするよなんて言うとしたらパワハラで訴えられるレベルの犯罪です。
降りるべきか考慮する
発表会に命は懸けるべきではないと、私は強く思っています。
バレエの先生たちにとっては、一生懸命準備してきたものだって思うだろうし
自分のクリエーションだから、命がかかっているように感じるかもしれないけれど、
生徒たちにとっては、ただの通過点です。
だから、ケガしていたら出なくていい。振付を変えていい。
たとえ、有名なゲストダンサーと踊る予定だったとしても、
その人と踊ったからって、その人に選ばれてカンパニーに入ることは99.9%以上ないと思います。
よって、ロジカルに考えたら、発表会に命をかけないのが当たり前なはず。
でも、今週はバレエ学校やプロダンサーなど、
キャリアがかかってる人達へのメッセージになりますよね。
その場合、ケガで降板するかどうかを十分考慮する必要があると思うのです。
でも十分考慮って時間をかけるという意味ではありません。
時間をかければかけるほど、オプションがなくなってしまうので、
自分の中で常にプライオリティ、つまり優先順位があるべきだと思います。
例えば、私が働いていたバレエ学校の場合、中間試験より年末試験の方が大事です。
よって、中間試験が途中までだったとしても、年末試験と年末公演に出られた方がいい、と計算できます。
実際、私もバレエ学校で働いていた時に、
試験中クラス担当の先生が、「O番はケガのためアレグロは行いません。」と試験管たちにアナウンスしていました。
そのアナウンスを聞いた私たち試験管は、
アレグロの点数はつけられませんが、それ以外の部分で点数をつけて、提出していました。
他の教科もあるわけですし、アレグロまでの部分がよくできていたら、大きく影響しませんから。
理解のある学校だったら、こうやって対応してもらえるはずです。
大きなカンパニーの場合、第2キャストがいるはずですし、アンダースタディもいます。
第一キャストと第二キャストを変更し、リハ数を減らして、舞台日をずらしてなど可能なこともあります。
もちろん、ケガして舞台に立てなくても、ちゃんとリハだったり医療関係者からのレポートがあれば
お給料に影響することもないはずです。
ただし、それは大きなカンパニーやユニオンがついているところだったら。
小さな私立、しかも日本の場合は、このような処置が行われないでしょう。
リハーサルやレッスンは出ているのに、本番舞台に立たないとお給料さえもらえないという
ブラック企業もありますから、この部分は吟味が必要です。
確かに、様々な理由で、この舞台に立たなければいけないと思うダンサーも多いと思うけど、
ケガがひどくなったら、次の舞台に影響するというのも忘れたくはありません。
だからこそ、最初のポイントは降りるかどうか考慮する、となります。
カンパニーはダンサーにケガ予防の教育をすべき
ちょっと話はずれるけどさ、バレエ団はダンサーたちに、オンゴーイング、
つまり継続したケガ予防の教育をすべきだと私は強く思っています。
穴が開いて困るのは、バレエ団なんだからさ。
治療費はもちろん、時給すら払わないんだったら、ケガ予防の教育くらいはしなさいよって思う。
ダンサーのほとんどがケガを経験するってわかっているんだからさ。
しかもね、お金かからないはずなのよ。
例えば私をバレエ団に呼ぶとするでしょう?
スタジオは自分が持っているんだから、会場費はかからないでしょう?
オフシーズンのいつものレッスンの時間に教育クラスを行えばいいのだから、
ダンサーたちは参加しやすいでしょう?
人数これだけ集めました、って私と交渉して、割引価格でクラスをやるとするじゃない?
保険とかでカバーできるかもしれないし、助成金とかも出るかもしれない。
100%カバーできなかったとしても、半額ダンサーが受け持つようになっても、
彼らは喜んで払ってくれると思うよ。
自分たちにとっても、治療費を浮かせられるチャンスなんだから。
実際に今回の来日セミナーで、
とある大学の舞踊学科向けに授業を行いました。
宣伝、人件費、会場費がかからないため、DLSセミナーよりも全然安い値段で、
学生たちに授業を提供することが出来ました。
本当にダンサーのことを考えているカンパニーだったら、
ケガする前にこうやって、出来ることをやってくれると思うんですよね。
特に、自分たちで、治療チームやリハビリ施設、トレーニングジムを提供出来ない規模なら。
話がずれましたので、今日のテーマに戻りましょう。
ケガを悪化させないために出来ることを徹底する
コーチや、アーティスティックディレクターと相談した結果、舞台に出ることになった場合、
ケガを悪化させないために出来ることを徹底します。
- バイトしてるなら全部休みます
- 食事量と休息を増やし、体に出来る限りチャンスを与えます
- ケガしている部分に負担をかけず、しかもその部分を守れるだけの筋力をトレーニングでつけます
- リハーサルは必要最低限しか出ません
バレエ以外でケガを悪化させる原因をすべて潰すためには、バイトも休むべきです。
そうすると食べていけないという人もいると思うけど、
最初のポイントで舞台に出るって決めたのならば、それくらいの覚悟が必要です。
貯金を崩しても、家族にサポートしてもらうでも、ネトフリなどのサブスクはキャンセルしなさい。
同じことをしていたら、同じ結果しか出ない。
つまり、今の生活でケガしたのだから、今の生活を変えない限り、ケガはスピーディーに良くならないでしょう。
食事と休息については、先週のポッドキャストを参照にしてください。
トレーニング、特にケガしている部分に負担をかけないような体づくりは
今からやっても遅い人もいるかもしれませんが、やらないよりマシです。
ケガしている部分に負担をかけないような体づくりとは何か?
例えば、膝をケガしていたら、大腿骨周り、ふくらはぎ、足先の強化をすることで、膝関節への負担を減らします。
腰だったら、胸椎の柔軟性と腰椎周りの安定、股関節のコントロール筋力をつけます。
もちろん、エクササイズでケガしたら元も子もないですから、
バレエのケガを熟知している、専門家のものでトレーニングしてください。
地元の理学療法士さんでは足りないかもしれません。
だって、理学療法士さんのエリアは、普通の生活に戻るようにエクササイズすることですから。
全てのリハが必要とは限らない
ケガを悪化させないために出来ることリストの最後は、
- リハーサルは必要最低限しかでません
です。
これはコントバーシャルな、怒られそうな意見だよね。
まずは説明を聞いてください。
リハーサルには、様々な種類があります。
- 振り渡しをする
- 表現力や役作り
- 皆で揃える
- 衣装やプロップの様子を見る
- オーケストラと合わせる
など。
その中で絶対に出るべきなリハと、第二キャストにお願い出来るリハがあるはずです。
特にコールドの場合、ソリストたちの練習にも付き合うでしょう。
でもコールドを見ている時間ではなくて、舞台全体を見ている時間のリハですが。
そういう場合、休むか、マーキングする。
全体を通すときは踊るけれど、細かく部分、部分を確認するときはマーキングに変えるとかもいいアイデアです。
もちろん、ミストレスやディレクターに事前に説明し、許可を頂くのは大切ですよ。
勝手に休んだり、気分が乗った時だけやるっていうのは失礼ですから。
このポイントはバレエ学校の卒業公演などでも使えると思います。
レッスンも同じように調整してください。
レッスンがウォームアップの場合、痛みが出る動きは避け、
その代わり、ケガしている部分をしっかりとウォームアップ出来るエクササイズに変更します。
既にトレーナーについているはずですから、何をしたらいいか分かるでしょう。
夢を思い出してみよう
「そんな風に上手くいかないですよ」って言う人は多いと思うのね。
私も正直、今日のポッドキャストでお話したすべてが出来る人はレアだとも思います。
先週のは別よ、最初にお話したように発表会は命かけないからね。
でも、ダンサーがしっかりとコミュニケーションするのは大切だと思います。
たとえNOと言われても。
そしてコミュニケーションする際には、
- 現在の状況
- 何が出来ないか
- どのようにカバーする予定か
- どんなサポートが必要か
をクリアに伝えてください。
ちゃんと説明出来れば出来るほど、許してもらえる可能性が大きくなりますから。
例えば、腰が痛いんですって言われても、ミストレスやバレエ学校の先生は
「痛くないようにやりなさい」
しか言えないでしょう。
でも、
「2か月前からアラベスクで腰の痛みがあり、治療家に診てもらっています。
リハビリも順調なので5月の舞台には影響しないはずですが、
今月は、アラベスクはアテールで、グランアレグロは小さめに飛んでリハーサルに参加させてください。」
と説明したら、分かりやすくない?
それに追加して、普段のレッスンでも注意している様子が見えて、
プチアレグロが終わったら、端でエクササイズしている様子が見えたら
この子、カンパニーにいらないって思われると思う?
これだけクリアに伝えられて、自分で責任が取れるダンサーだよ?
そういうダンサーが少ないカンパニーだったら、より重宝されるはずです。
バレエ学校の校長も昔言っていました。
「上手な子より、この子は信頼できると思える子に大事な役は渡したい。」
端で頑張っている、役を覚えている、ちゃんと意見が言えるって大切なクオリティだと思います。
そんなことはないって?
口答えしないダンサーが好きだって?
もしそうだったら、もう一度あなたの夢を思い出してみましょう。
ダンサーになりたい。
もしそれが夢だったら、その場所でケガのためダンサー生命を絶たれたら
夢を達成できない場所にいるって忘れないでください。
もちろん、オーディションで入ったから、
ここしか居場所がないんだ!って錯覚しやすいと思います。
でも、そんなことはない。
ダンサーを尊重しないで、奴隷のように使うカンパニーや、
生徒の健康を考えず、学校の点数だけ考えているバレエ学校に
あなたの夢と健康を託さないでください。
もし踊る場所がなくなってしまったら、
自分でカンパニー立てて、仲間を集めてやってやる!くらいの迫力で行きましょう。
今日のエピソードで出てきたダンサーに特化したエクササイズ。
DLS公認スタンスインストラクターコースで一緒に学びたい人は、
DLSサイトのインストラクターページにて登録しておいてくださいね。
あと少しで5期生の情報をお届けする予定です。
- バレエ留学する前に、生徒たちにエクササイズを教えてあげたい
- プロダンサーやプロを目指すクライアントさんをよりよくサポートしてあげたい
- スタジオをより安全な場所にしたい
そんな人たちと10か月勉強していけるのを楽しみにしております。
使い捨てダンサーではなく、ダンサーの安全と健康を尊重するバレエ界になるように、
ダンサーをサポート出来る人が増えてくれると嬉しいです。
来週のポッドキャストはコンクール前にケガしている人へのメッセージをお届けします。
お楽しみに!
Happy Dancing!
佐藤愛