DLSポッドキャスト epi553 年のせいで体が硬い?

今回は、年齢と柔軟性の関係について掘り下げます。

年齢とともに体が硬くなるのは本当?それとも思い込み?

IADMSの研究データをもとに、ストレッチの誤解やリスク、そして大人が安全に柔軟性を高める方法についてお話します。

ストレッチはただやればいいわけではありません。

正しい知識を身につけて、安全に柔軟性を高めていきましょう!

Transcript


東京暮らしもあと1週間になった佐藤愛です。

東京生まれではありますが、3歳の時に千葉に引っ越しまして、高校までは千葉にいました。

 

とはいえ、2004年にメルボルンにきて今年で21年!

なんと、日本にいた時間より、メルボルンにいる時間の方が長くなりました。

 

これだけ長く海外に住んでいると、さぞかし英語が出来るかと思いますが、

義理の姉たちと、1番上の甥っ子、夫のグループで毎日点数を出しているクロスワードや、ワードゲームの出来なさったら!

日本語は下手になり、漢字は書けなくなり、

でも英語も自分が得意な単語しか使わなくなり、偏りの酷いこと。

 

これって、言葉だけではないのかもしれません。

違う環境に行かなければ、使わないものがあり、慣れがあり、自分の得意なことしかやらない。

これはレッスンも、指導も一緒じゃないかしら?

 

星の数ほどあるバレエのステップの中でも、

やっぱりアンシェヌマンで組む振付は似たり寄ったりになってきます。

 

慣れているスタジオで、同じようなバーの位置で、

いつも言われている注意にも慣れて、耳ちくわ

右の耳から左の耳へ流れてしまうか、

いつも同じことを言われているので、「私は出来ない体型なんだ」なんて決めつけてしまったり。

 

先生はお手本を見せなければいけませんから、自分の得意なステップを、自分の得意な方で。

生徒達は、マーキングはいつも同じ方向で、自主練も得意なことをやって。

 

なにより、“勉強の為に”出るコンクールでは、

自分の苦手な振付を選ぶ人はいないでしょう。

こういう偏りの中にいると、上手になった気分になりますよね。

 

だって、

  • なんとなく分かるアンシェヌマンだから覚えるのも早い
  • いつも同じような動きだから、その部分だけ得意になる
  • 自分に合っているバリエーションを、何か月も練習するから出来るようになる

でも、それって上達ではない

 

上達とは、出来なかった事が出来るようになることなはずです。

元々出来ている事を、もっと練習するのではなくってね。

 

粗が出てしまうのは、大きなコンクールやオーディション会場でしょうか。

何か月、人によっては何年も練習してきたバリエーションではなくて、

その場で、いつもと違う先生の、聞いたことがないような注意を聞きつつ、

自分より上手な子達が集まった会場で、力を出す。

 

これは、得意な動きの動画をtiktokでアップして、たくさんイイネがつくのとはレベルが違います。

残念ながら、今の子達は、そっちの方が上手なダンサーだと思っているようですが。

 

ふふ、今の子達は、だって。

この言葉を使うと、年を取った気持ちになりますが、

今日のテーマは年齢なので、ピッタリかもしれません。

 

今月はストレッチについて、エビデンスと共にお話してきました。

エビデンスとは、科学的根拠のこと。

質の良い論文に出されている内容や、様々な論文を集めて、信頼できる団体が出している情報などを指します。

 

もちろん、教科書、医療参考書などもよいエビデンスになりますね。

ただ、論文の中には質の良くないものが存在するんですよ。

バレエの先生の中にも、指導の勉強をしていない先生がいるように。

ま、それは今日のトピックではないので飛ばしていきましょう。

 

本日のテーマは年齢と柔軟性について。

 

  • 静的ストレッチは、思ったよりも簡単ではなく、しっかりと勉強していなければ危険だということ
  • ウォームアップは柔軟性をアップさせる時間ではないし、静的ストレッチはウォームアップにならないこと

先週のポッドキャストで勉強しましたが、

「そうは言っても、年のせいで体が硬いから、伸ばしておかないと踊れない」

って意見もあるかもしれません。

 

今月の最初のエピソードでお話したように、

ストレッチの話をすると「そうは言っても」という言葉が付いてくることが多いですから。

 

体が硬くなる年齢はあるのか?

  • 「年のせいで体が硬い」
  • 「年齢をお召しになると、柔軟性が落ちて姿勢が悪くなる」

など年齢と柔軟性についての言葉を聞くことがありますが、これは事実なんでしょうか?

 

IADMS(国際ダンス医科学学会)が2012年に出した「Stretching for Dancers」という資料によると

「高齢者も年齢を重ねるにつれて柔軟性が低下します。」

と書いてあります。

 

ある研究では、

「5年ごとに股関節の可動域が1.8度、肩や手首の可動域が2.2度減少します。

これらの加齢による柔軟性の低下は、結合組織の弾力性の低下が原因と考えられます。

最大引張強度(引っ張って裂ける前の耐性)が減少し、ストレスへの適応速度も年齢とともに低下します。」

と書いてありました。

 

ここから分かったことは、確かに年齢と共に柔軟性は落ちているようです。

そしてそれは、骨、軟骨、腱、靭帯、血管、筋肉などの結合組織の弾力性が影響しているみたい。

 

ただそれは、65歳以上の人達が、5年ごとに1.8度とかなり緩やかなスピードで変化しているということと、

それと同時に、引っ張ると割けてしまうから、十分気をつけなければいけないという事が分かりましたね。

 

「年だから頑張ってストレッチしなきゃ!」ではなくて、

「年齢に合わせたストレッチが必要だ」ってことが分かってくださったら嬉しいです。

 

今月のポッドキャストを最初から聞いてくださっていたら、

ここに追加して、静的ストレッチだけが柔軟性アップの方法ではないし、

こういう人達こそ、くれぐれもレッスン前に伸ばすべきではないと分かったよね。

 

ただ、こういう人達は「念入りにストレッチしてケガ予防しましょう」と言われてきた世代なので

考えを変えさせるのが難しいかもしれませんが…

 

もう1つ、ポイントがあったんだけど、気づいたかな?

もう1度該当部分を読みますよ。

「高齢者も年齢を重ねるにつれて柔軟性が低下します。」

 

成長期も体が硬くなる

高齢者「も」と言っているということは、年齢が高い人「だけ」が柔軟性が低下するわけではないってこと。

そう、他の年齢でも体が硬くなる時期があるんですよ。

それは、成長期

 

ライブラリの成長痛クラスや、保護者向けの成長期の体セミナーでもお話しているように、

成長期は骨の方が筋肉よりも先に伸びます

よって、筋肉が引っ張られる形になるため、柔軟性が低下します。

 

この時期に無理やり引っ張ったり、間違った使い方をしていると

オスグット症を代表とした成長痛、つまり成長期スポーツ障害に繋がってしまうわけ。

 

  • かかとが痛い、踵骨骨端症
  • アーチの内側、有痛性外脛骨が痛い

は有名どころですが、

骨盤の出っ張っている骨全て、たとえば坐骨などが痛いという子達もいます。

 

残念ながら、ダンサーたちは痛いストレッチが「当たり前」だと思っていて

「体が柔らかいとケガしない」と思っているので

ストレッチ「が原因」で坐骨の剥離骨折に至る、股関節を捻挫するなんて夢にも思っていないんです。

 

エピソード551でご紹介した論文の1節を覚えてますか?

「“柔軟な”ダンサーは、柔軟性の低い人が耐えられる以上の負荷に耐えることができるようです。

しかし、注意すべきことは、急性のダンスによる怪我の約80%が柔軟性トレーニング中に発生しているという点です。」

 

そう、ストレッチをしているときに、急性のケガの大部分が起こるという事実を

私たちは忘れないようにしなければいけませんよね。

 

大人が柔軟性アップさせるには?

「成長期じゃなく、年齢と共に柔軟性が下がると分かっている私たちはどうすればいいの?」

という勉強熱心な大人バレエトレーニーさんの声が聞こえてきそうですね。

 

大人だけでなく、柔軟性をアップさせる方法、

ケガのリスクを出来る限り下げながらストレッチする方法をお話するには、

そのストレッチが本当に必要なのか? など吟味しなければいけないポイントがまだまだありますので

ライブラリにある柔軟性クラスを参照にしてください。

 

だからね、今月何度も言っているけど、ストレッチはちゃんと勉強していないと指導出来ないのよ。

 

でも、今日のポッドキャストを終わらせる前に、

大人が今すぐできる、柔軟性アップの方法を2つご紹介します。

 

1)水分補給

ご存じのように、柔軟性に大きく影響する体の組織は筋肉です。

そして筋肉のほとんどは水分で出来ています。

体の組織の中で、筋肉ほど水分が含まれている組織はないんですって!

 

骨のお仕事の中に、栄養を貯蔵しておくというお仕事がありますが

筋肉のお仕事の中には、水分を貯蔵しておくという仕事があるんです。

逆を考えると、水分量が足りない場合、体は筋肉の水分を使ってしまいます。

 

だからこそ、筋肉を柔らかく、健康に保つためには、

水分補給が大きなカギになります。

分かりやすいイメージは、ビーフジャーキー。

カピカピになった筋肉は固くなってしまいます。

 

2)体を動かす

筋肉がかたくなってしまう原因の1つに、筋肉を使わないこと、つまり筋肉が弱くなることがあります。

 

肩こりや、腰が張ってるっていうイメージを考えてみて。

これらは肩や腰の筋肉が凝り固まっている状況ですよね?

つまり、固まっている筋肉

 

それって、肩回りをたくさんつかったから肩こりになるの?

腰回りの筋肉を鍛えたから、張ってるの?

違うよね。

 

長時間同じ姿勢でパソコンに向かっていたり、立ち仕事をしていたりするから

腰や肩が凝り固まるんですよね?

 

今日のポッドキャストの最初にお話したように、

気を付けていないと、体の使い方、得意な動きには偏りが出てしまいます

つまり、いつも使わない場所が一緒ってこと。

そしてそこは硬くなります。

 

硬いと感じるからストレッチするんだけど、

使っているわけではないし、強化されているわけではない。

だからまた、次の日に硬くなってしまいます。

この知識があれば、体を動かすことが柔軟性をキープするカギになるということが分かるでしょう。

 

まとめ:年のせいで体が硬い?

大人、特に高年齢の方々の体がかたくなるのは事実です。

でも、その人たちの筋肉や組織は、引っ張られると切れやすくもなっています。

 

だからこそ、最近体が硬いなー年のせいかな?と思っていたら

水分量と日常のエクササイズを見直してください。

年齢を重ねれば重ねるほど、癖、偏りも強くなってしまいます。

 

出来たら自己流ではなく、クラスでエクササイズをやる事をお勧めします。

自分の得意な動きや、知ってるストレッチだけにならないから。

 

でも、そのような時間がない人は、

いつもの生活に運動を追加しましょう。

柔軟性がアップしても、使えなかったらケガ予防になるわけではないけど、

筋肉が強くて困ることはありませんから。

 

大人バレエを指導している先生たちは、

このように体の構造をしっかりと学んで指導してください。

いくらバレエシラバスを勉強していても、

大人の体のためのシラバスは存在しません。

 

だれも、生徒をケガさせる目的で指導はしていないと思うんですよ。

ただ、こうやって、解剖学やエビデンスベースの勉強をしないと、

生徒さんたちを安全に指導が出来ないよ、って覚えておいてくださいね。

 

このポッドキャストをリアルタイムに聞いてくれていたら、

明日3月22日にて、大阪セミナーのお申込みが終了します。

このポッドキャストをレコーディングしている時点で、ダンサーの足は残り1席になっていますが、

教師の為のバレエ解剖学講座にはまだ空きがあるんじゃないかと思っています。

 

感覚や、昔からやってきたから、ではなく

科学的根拠と共にバレエを教えたい先生は、1年に1度のこの機会をお見逃しなく!

一緒に、生徒の安全と将来の健康を第一に考えたレッスンを提供していきましょう。

大阪にて、お会いできるのを楽しみにしております。

 

Happy Dancing!

佐藤愛

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