もしもシリーズ最終回は「もしも私が大人になってバレエを再開したら?」がテーマ。
プロを目指していた過去を振り返りながら、再開組の悩みである「頭ではわかっているのに体がついていかない」問題や
オンライン活用、大人のバレエクラスに適した先生選びについて深掘りしています。
趣味としてのバレエを楽しむためのヒントが詰まった内容です!
Transcript
多分東京にいるはずの佐藤愛です。
昨日、今日でDLS公認スタンスインストラクターの実技試験が行われています。
これが約10か月にわたるコースの最後の試験になるのですが、
大人になってから、ここまで勉強したことがない!という声を毎回聞きます。
大人になってから、一緒に頑張れる仲間が出来て嬉しい!という声も多いですね。
こんなに大変だと思わなかった、というのも多いので、ちゃんとお伝えしておきます。
いいところばっかりお伝えすると語弊があるもんね。
未だにストレッチはダメ?と聞かれる理由は?
さて、今日は体が柔らかいとケガしないのか?というテーマについて。
ライブラリにも柔軟性だけで1クラスがありますし、
DLSのほぼすべてのクラスで柔軟性やストレッチについての言及をします。
もしかしたら、テーマや質問によっては、解剖学エクサではストレッチの話をしないかな?
でも未だに多くの質問を受ける場所なので、カバーしている気がするのですが、
来日セミナーの前に事前収録をしているので、100%とは言い切れませんね。
数か月前になりますが、インスタのDMで
「結局ストレッチはダメなのでしょうか?最新の研究と共に教えてください」
という質問が届きました。
DLSセミナー常連さんや、今回受けてくれている人たちなら
ストレッチの話をするときに私が
「ストレッチがダメとは言っていないからね!」
と前置きしてからお話するので、笑っちゃうかもしれませんが、
人間、白黒ついていた方が分かりやすいのでしょう。
- 砂糖は体に良くない
- 野菜は体に良い
とか
- ストレッチは良い
- ストレッチはダメ
とかのほうが分かりやすいもんね。
暗記しやすいじゃない?
その人の遺伝、生活習慣、現在の病気の有無や、目的によって
砂糖が良いか悪いかが変わるとか
ストレッチのタイミング、指導内容によって良い悪いが決まるとか。
そういった、ニュアンスを理解するには、ネットで齧ったくらいの知識では足りません。
エピソード543 情報過多の時代のダンサーへでもお話したけど、
今だったらいくらでも情報は手に入るじゃないですか。
ちなみに、この方の質問にあった「最新の研究」も簡単に手に入ります。
英語だったとしても、無料で使えるオープンソースのAIを使ったら、全文日本語に翻訳できます。
問題は、
- 行動を起こせるか
- 勉強する意欲があるか
の2つ。
このポッドキャストを聞いてくださっている方だったら、
指導者は解剖学を勉強すべきだ
ということを知っていると思います。
- お金をもらって、他人を指導しているのだから、ケガさせないのは当たり前
- 体を使う内容を指導しているのだから、体の構造が必要最低限分かっていないと困る
- バレエシラバスやメソッドを勉強していたとしても、その中に含まれない年齢を、しかもオーディションなしで指導しているのだから、自分を守るためにも体の知識が必要
- 日本の学校生活と両立させるために、試験の時期にレッスン回数が減ることがあったり、部活や体育の授業でケガしてくることもあるので、生徒たちのために知っておきたい
と分かっているでしょう?
もちろん、多くの皆さんがすでに勉強してくれていると思うので、
皆さんを叱ってるわけじゃないですよ!
でもね、多くの先生たちが今お話した点を知っていたとしても、
そして勉強していたとしても、
「そうは言っても…」という気持ちがある部分があると思うんです。
それが強くなるのが、ストレッチ。
- そうは言っても、今の子たちは体がかたいって言われるし
- そうは言っても、バレエをやってるんだったら開脚くらい出来てほしい
- そうは言っても、保護者がもつバレエのイメージを守らないと生徒が辞めちゃう
- そうは言っても、つま先伸びない、ターンアウト出来ない
って思いません?
いいですよ、そこで、そうだよね、って言ってくれても。
私には聞こえませんから。
- そうは言っても、足を高くあげさせるために、何していいのか分からない
という人もいるかもしれません。
自分に正直になるのは、問題解決と成長の大事なステップです。
このような「そうは言っても」を1つずつ潰していくために勉強する人たちが増えると
この質問が私のもとに来なくなる、と思っています。
質問があることがいけないのではないけど、
「そうは言っても」と言っている間は、古い習慣から抜け出すことが出来ないからです。
ケガと柔軟性
「ケガしないように入念にストレッチして」
というフレーズを
聞いたことがない日本人はいないと思うんですがどうですか?
もし今までの人生で聞いたことがない!という人はセミナー会場で私に教えてくださいね。
どこに住んでいる、何歳か、など研究させて頂きます。
というのも、1980年代まではウォームアップ=ストレッチという考えが蔓延していたそうですから
私も含め80-90年代に生まれてバレエをやっていたら
こういう考えが普通だった時代にいた先生たちに指導してもらっていたという計算になるんですね。
外に出て、ちゃんと勉強しない限り
自分が習ってきたこと、言われてきたことを伝え続けるのが“お稽古バレエ”の特徴なので
多くのダンサーが未だに入念にストレッチすることがウォームアップだと思っていても不思議ではありません。
勉強していなければ。
入念にストレッチすると、ケガを防ぐことが出来るのか?
この質問には様々な角度から答えることが出来ますが、今日は
1)ストレッチとは何か?
2)柔軟性とケガのつながりはあるのか?
をお話していきます。
まず、ストレッチと言っても、様々な種類があるってご存じでしたか?
そして何回か、DMでも会話をしたことがあるのですが、
年齢が大人な方々は特に、エクササイズのことをストレッチと言っていたりします。
つまり、ストレッチという言葉の定義が曖昧なままでスタートしてしまっているってわけ。
細かな流派は放っておいて、一般的、つまり治療家が使う特殊なものではない中で、
一番大きく分けられるストレッチの種類は
- ダイナミックストレッチ=動的ストレッチ
- スタティックストレッチ=静的ストレッチ
の2種類です。
言葉通り、動いているか、その場で止まっているかがキーポイント。
ゴルフ場にいる叔父様たちにストレッチと言うと、屈伸運動とか、腕をぶらぶらさせる動的ストレッチを
ダンサーにストレッチというと、開脚やバーに脚を乗せて体を2つ折りするなどの、静的ストレッチを
行う様子が見られます。
つまり、一般の人たちとバレエダンサーの思うストレッチで違うんだよね。
アマチュアサッカーとか、部活のバスケとかで、ストレッチしなさい、と言ったら
前後開脚で後ろに反ったり、膝を押し込んだり、つま先を押し込んだりしないでしょう。
たとえ、サッカーでは足首の可動域が必要で、バスケではジャンプが多いと言っても。
また動的ストレッチとは、動的な可動域を
静的ストレッチとは、静的な可動域を見ています。
舞台で使うのは、もちろん動的な可動域です。
研究や論文を読むうえでも、この2つの違いを理解しておくのは大切です。
例えば、1月のポッドキャストでもセクションをご紹介した、
2004年に出された「The Dancer as a preforming Athlete」に皆さんが興味を持ってくれて調べたとしましょう。
そうするとね、セクション1.4にはこんな文章が出てきます。
「MFJM(筋肉の柔軟性と関節の可動域)レベルがプロのダンサーやダンス学生において考慮された場合、腰部や足首の怪我の頻度や重症度との関係は見られませんでした。
しかし、アスリートの場合、腰椎の柔軟性不足が腰部の怪我の発生率の増加と関連していることがわかり、柔軟性の不均衡が怪我の発生率を高める原因となることが示されました。
“柔軟な”ダンサーは、柔軟性の低い人が耐えられる以上の負荷に耐えることができるようです。
しかし、注意すべきことは、急性のダンスによる怪我の約80%が柔軟性トレーニング中に発生しているという点です。」
この文章を読むだけではよく分かんないかもしれないからポイントを分けますよ。
1)アスリートの場合、腰椎の柔軟性不足が腰のケガに繋がっていると分かっていたり、
柔軟性の不均等がケガを増やしちゃうと分かっているが、
プロダンサーや、バレエ学校の生徒たちの場合は、柔軟性とケガのつながりはない。
2)体が柔らかいダンサーは、体の硬い人よりも、負荷に耐えられる。
3)ただし、ダンサーの急性のケガの約80%が、ストレッチをしている際に発生する
3番は種類が違うので、別にみていきますが、
一般人だったら、体が柔らかいとケガしないってことじゃないの?
プロじゃないし、バレエ留学しているわけでもないダンサーだったら、
ストレッチしても問題ないんじゃないの?
と思うかもしれません。
そう思うからこそ、出典元を見に行く必要がありますよね。
本当にそう書いてあるのか?
1番のポイントに書いてあった出典元のアブストラクトを読んでみると、こう書いてあります。
「138人の女性大学アスリートが、8つの負荷のかかる競技スポーツに参加し、
シーズン前に筋力と柔軟性のテストを受け、その後競技シーズン中のケガを追跡調査しました。
筋力は、右膝および左膝の屈筋および伸筋の最大等速トルク(30度および180度/秒で測定)
として評価されました。
柔軟性は、いくつかの下肢関節の動的可動域を測定したものです。
アスレチックトレーナーが選手の練習や試合中に発生した怪我を評価し、記録しました。
調査の結果、40%の女性アスリートが1回以上のケガを負いました。
アスリートが以下の条件に該当する場合、下肢の怪我が増加することが分かりました。
- 右膝屈筋が180度/秒で左膝屈筋より15%強い
- 右股関節伸筋が左股関節伸筋より15%柔軟である
- 膝屈筋/膝伸筋の比率が180度/秒で0.75未満である
これらのデータは、膝屈筋や股関節伸筋の左右差が15%以上である場合、
ケガのリスクが高くなる傾向があることを示しています。
これらのデータは、特定の筋力および柔軟性の不均衡が
女性大学アスリートの下肢のケガと関連していることを示しています。」
何を言ってるのか分からなかった人のために、簡単バージョンにしてみますよ。
この研究では、138人の女性の大学スポーツ選手を対象に、シーズン前に筋力と柔軟性のテストをしておいて、
シーズン中にケガをしたかどうかをチェックしました。
筋力のテストでは、膝の屈伸筋の力を測定し、右膝と左膝のどちらが強いかを調べました。
柔軟性のテストでは、いくつかの下半身の関節のアクティブ、つまり動的な可動域を調べました。
シーズン中、40%の選手がケガしたのだけど、
ケガした選手には3つの共通点があって、それは
左右の筋力、動的柔軟性が均等でなく、しかも、膝の屈曲筋と伸展筋のバランスが悪い。
こうやって読んでみると、体が硬いからケガをしたのではなく、
筋力の差があったことが原因だってわかったわけですよ。
だって、自分で動かせる柔軟性って結局は動かす力が必要なわけだから。
過度な柔軟性はケガにつながる
今日のポッドキャストは、「体が柔らかいとケガしないのか?」というテーマでお送りしていますが、
前々から、DLSでは過度な柔軟性はケガにつながるというデータを皆さんにご紹介していますよね。
最初の方にお話したように、ライブラリクラスの中でも、来日セミナーでも。
多くのスポーツ、疾患、もちろんダンサーの研究でこの部分は言われているので、
論文を探したら山ほど出てきてしまうけれど、
知識としてすっごく簡単バージョンで説明すると、
柔軟性向上=関節の可動域が広くなる=関節が不安定になる=ケガのリスクが増える
ということ。
そして、「柔軟性がケガ予防になる」と書いてあるほとんどのケースは
動的な可動域を指しています。
ダンサーが分かりやすい感じで説明するなら、
床での開脚ではなく、デベロッペアラセコンドでキープの方。
デベロッペアラセコンドのキープの力が強くなったら、
そりゃバリエーションで足が上がるに決まってるよね?
ここにさっき論文を読んだときに飛ばした点追加するよ。
「注意すべきことは
急性のダンスによるケガの約80%が、柔軟性トレーニング中に発生している
という点です。」
ケガ予防のためにストレッチをしたとしよう。
過度な柔軟性を持っていない人だから、大丈夫だって思ったとしよう。
ただね、ダンサーの急性のケガの80%が起こるって書いてあるわけ。
ケガ予防のための行動が、
ケガにつながる可能性がとっても高いという理解をしておく必要があるってこと。
ここに子供たちの体の条件をつけておくよ。
成長期の子供たちに見られやすいケガは、皆さんご存じのように成長痛。
成長痛とは、成長期スポーツ障害というケガの種類で、
これは、成長中の骨が、強い牽引、つまり強い力で引っ張られてしまい、
炎症を起こしたり、剥離骨折してしまうというケガ。
ということは、成長中の子供たちの体だったら、
強い力で引っ張りたくないというのが分かりますよね。
既にライブラリの「成長痛」クラスで勉強している人たちは知っているように、
骨がはがれちゃう可能性があるから。
こうやって様々な角度から考えてみると、
ストレッチについて先生が十分考える必要があるよね。
広い可動域が不必要だって言っているわけではないんだ。
「エピソード542 バーレッスンの歴史と今の時代のダンサーが知っておきたいこと」でもお話したように、
現在のダンサーたちは、昔よりも高い足を求められています。
でも、「エピソード544 ダンサーは座って仕事する人と同じくらいの体力!?」で見たように
たくさん動いているように感じるけど、レッスンは体力を作る内容にはなっていないから、
体力や筋力を育てる方が、足が高く上がる土台を作ることが出来るのではないか。
特に多くの研究で過度な柔軟性はケガにつながると分かっているし、
ストレッチについてちゃんと勉強していない先生たちが、
形だけ真似した、昔からバレエスタジオでやっているからという理由だけでストレッチを行ったり、
オーバーストレッチが出来れば上達すると信じているダンサーたちが
SNSを見ながら、変なことをやってしまうもんだから。
様々な日本の雑誌やテレビで、ストレッチすると痩せるって伝えているもんだから。
「入念にストレッチしてケガ予防しようね」という言葉を鵜呑みにしてしまっているから。
急性のケガの80%がストレッチ中に起こる。
なんて言われてしまう残念な現状になってしまうのではないでしょうか?
でもみんなが求めているのはどの時代も一緒。
- 上手になりたい。
- ケガしないで踊りたい。
でしょう?
そのための努力が、実はケガのリスクを増やし、上達に繋がらないって
10年後、20年後に分かったらとっても悲しいじゃない?
ストレッチをするなら
ストレッチをしてはいけない、とは今回も一度もお話していません。
ストレッチだけでなく、どんなスポーツも、バリエーションも、勉強とかもそうだけど、
- 知らないことは、正しく出来ているか、間違っているか分からない
- 知らないことは、予防できない
- 知らないことは、指導できない
の3点をしっかりと頭に入れておきませんか?
そのうえで、ストレッチをするなら
- 自分の体に必要なことを行う
- 安全な方法と時間帯に行う
- 目的をもって行う
を覚えておきましょう。
それが分からなかったら、まずは勉強が必要です。
例えば、今年初めて行う「ターンアウト向上」セミナーでは、
私がバレエ学校時代に使っていた、ターンアウトを測る方法をお伝えします。
そうすることで、何が原因でターンアウトが出来ないのか、
どの筋肉がかたいのか?を確認することが出来ます。
どうやって、ストレッチやリリースをするのかを説明します。
こうすれば、ターンアウトを向上するという目的のもと、
自分の体に必要なストレッチを、安全に行う方法が分かるはずです。
あとは、セミナーの後に自分が継続するかどうかだけど。
毎年行っている「ダンサーの足」でも同じように、
つま先を伸ばす方法、ストレッチ、エクササイズをお伝えします。
ダンサーたちは、そうやって勉強することで、自分の体と将来を守る方法を学んでください。
もちろん、プリエ、タンジュはプロになっても繰り返すように、
過去に受けたことがあるけど、最近ご無沙汰…という人は
リピートしに来てくださいね!
1回のレッスンで出来るようになったら、
リハーサルする必要がないでしょうけど、そうじゃないことは皆知ってるよね?
先生たちはもっと勉強が必要だと思います。
私たちは、お金をもらって他人の健康を預かっているのだから。
解剖学を勉強することは、ストレッチのためにも大切です。
だって関節がどの方向に、どれくらい動くのか?が分かってなければ
ストレッチを指導することは出来ないから。
まずは、来日セミナーでお会いしましょう。
- もっと勉強したい
- 正しい方法で、生徒を上達させたい
- 生徒たちが安全に踊れる環境を作りたい
と思ってくださったら、DLS公認スタンスインストラクターコース5期生は5月から申込が始まります。
長いコースですし、100%コミットメントが必要ですから、
まずは来日セミナーで、私のクラスや指導方法が好きかどうかを試してくださいね。
生徒と先生の相性って大切ですから。
年に1度の来日セミナーの残席情報は、www.dancerslifesupport.comでご確認ください。
今日も最後まで、マニアックなポッドキャストをお聞きいただきましてありがとうございました。
来週金曜日も、エビデンスベースのストレッチについてお話しましょう!
Happy Dancing!
佐藤愛