新しい年のスタートに、初心に戻ってバーレッスンについて学び直しませんか?
1820年から2010年代までのバーレッスンの進化を追い、
時代ごとに変わるダンサーのトレーニングや身体への要求を深掘りました。
初心に立ち返り、現代のダンサーや指導者が知っておくべきポイントを明らかにした上で、
安全で健康なダンス生活を送りましょう!
Transcript
2025年最初のDLSポッドキャストへようこそ!DLSの佐藤愛です。
エピソード542の今日は、新年に相応しく、初心に戻ってみようと思います。
テーマはバーレッスンの歴史。
DLSポッドキャストで歴史系を取り上げるのは初の試みですが、
バレエ史は私のエリアではないので、
今日も歴史を使いつつ、運動生理学的からの目線で
21世紀のダンサーが知っておかなければいけないことを考えていきたいと思います。
今日のポッドキャストは、「ロイヤルバレエ&オペラ」のYouTubeチャンネルより
Ballet Evolved: How ballet class has changed over the centuries
という名前の8,9年前にアップロードされた動画が出典元です。
興味がある人は、YouTubeで検索してみてください。
ただ、英語の表題なので見つからなかったという人は、
このポッドキャストのスクリプトページにリンクもありますので、
www.dancerslifesupport.comよりエピソード542をチェックしてみてくださいね。
残念ながら、この動画には英語とロシア語しか字幕がついていません。
そんなに難しい英語ではないものの、慣れていない人にはわかりづらいと思いますので
一緒に見ていきましょう。
3つの時代のバーレッスン
この動画では3カップルがそれぞれの時代に合わせたバーレッスンを見せてくれています。
最初にスタジオに入ってきたダンサーは現代のダンサー。
彼らはブーティーと言われる、足先を温めておくシューズを履いて、
フォームローラーやマッサージボールをもってスタジオに入ってきました。
その後床でローラーを使ったり、マッサージしたりしつつ
床で行うストレッチが始まりました。
ただ、ロイヤルバレエ団員なので、ここで行われているストレッチは
バレエ解剖学の入門書として多くの人が知っていると思う「インサイド・バレエテクニック」という本の中で言われる
「ボディチェック・ストレッチ」というストレッチの種類のようですね。
1か所で止まっている様子は見られませんし、
世界トップレベルのカンパニーに選ばれたプロダンサーが、
多くの医療系サポートチームがいる環境で行っていることです。
最初の方でお話したように、ビデオは8,9年前にアップされたので
現在、2025年のロイヤルバレエでもこのような行動なのかはわかりません。
ロイヤルバレエ団のダンサーにインタビューした動画でも見てもらっているように、
歴史的にみたら、この10年くらいの間に、ロイヤルバレエ団にはスポーツサイエンティストが入り、
ジムも大幅に改良されて、スポーツ医療チームが大きく飛躍していますから。
ただ、この違いについては後で先生が発する言葉にもヒントが隠されているのでちょっと待っててね。
次に入ってきたカップルはロマンチックバレエ時代、1880年のダンサー。
さっきのダンサーたちと異なり、手ぶらでレッスンに来ました。
女性ダンサーはショールを肩から羽織っています。
この時代はストレッチ性のある素材がなかったので、
下着の中にシャツを入れ込んだ、なんて話も出ていますね。
彼らはその後、床には座らず、バーに脚を乗せてストレッチを始めました。
最後のカップルは、バレエの技法を体系化し、著作にまとめた理論家として知られるカルロ・ブラジスの時代、1820年。
他の2カップルと服装も大きく異なり、今でいう衣装のような恰好をしてレッスンにやってきました。
先生がターンアウトの話をし始めました。
今でこそターンアウトは股関節から筋肉を使って行うといわれますが、
最初はそうではなく、足、フットの方向がポジションの方向になっていることだったらしいです。
そのため、足先の方向を外に向けるように、木の板と板の間に立っているイラストが表示されました。
プリエに進むと、3カップルの動きに大きな違いが見えてきます。
1820年カップルは素晴らしくゆっくりなグランプリエを各ポジションで1回ずつのみ。
1880年ダンサーは今でもみられるようなプリエとグランプリエ、カンブレやルルベなどのコンビネーションを行っています。
2010年代はパラレルでカンブレしたりなど、もっとダイナミックに体を使っています。
バーレッスンの順番やポジション、腕のポジションも含めて、大きな違いは見られません。
ですが1820年は、1つのコンビネーションがもっと長かったようですね。
その時代を担当しているダンサーは、ステップがゆっくりで時間があるので、
足を遠くにする感覚などが分かりやすかったと言っています。
この時代のバーレッスンは、1,2つのコンビネーションを15分ほどだけやったらしく、
この短い時間にウォームアップされる必要があるそうです。
最初の方で、現代ダンサーはストレッチをしているという話をしたときに、
あとで先生が発する言葉にヒントがあるとお話したでしょう?
それが、ここ。
プロダンサーの場合、バーレッスンはウォームアップなんです。
この後のリハーサルだったり、お仕事のための。
なので、現代のバレエ学校生徒が、試験のためにレッスンするような感覚、
ましてや、日本のレッスン自体が習い事、という感覚とは異なるというわけです。
だって、バレエ生徒の場合、レッスンがゴールでしょう?
でもプロダンサーはこれがウォームアップなんだよね。
だから、レッスン前に行う行動に違いがでても当たり前かもしれません。
グランバットマンは高さの違いに大きな差がありました。
1820年は90度くらいの高さ、1880年は120度くらい、2010年は120度を超えていましたね。
特筆すべきところは、現代ダンサーの方があっという間にアンシェヌマンが終わっていること。
スピーディーに、大きな可動域で行うけれど、反復回数は少なく、曲も短いです。
センターレッスンに進むと、
1880年はマイムの練習をしていたそうです。
このビデオはここまでで終わりでした。
時代と共に舞台が変わる
1820年から1880年の間は60年ですが、
1880年から2015年は130年以上時間が空いています。
そのため、ちょっと比較するのは難しいかもしれません。
ただ、動画の中でプチバットマンを説明していたところで、
1820年の女性ダンサーはひざ丈のブルマを履いた上に、ドレスを着ていて
足を出すのははしたないから、プチバットマンも非常に低い位置で行われていたという説明がありました。
その時代から5,60年しかたっていない1880年は、女性もタイツを履いて足を出しています。
この時代の差は、今小学生でレッスンをしている子と、そのスタジオの大先生くらいの年齢の違いです。
テクニックも、服装も、お客さんの好みも
同じスタジオで顔を合わせる年齢差の中で大幅に変わったということが分かりますよね。
現在は、SNSが普及し、世界各国のバレエ団が
YouTubeやストリーミングで簡単に見える時代になったので、
このような時代の変化はよりスピーディーに行われているのではないかと思われます。
実際に、同じバリエーションを踊っている
1962年、1979年、1996年、2003年のダンサーのポジションを比較している研究によると
足の高さは年々高くなっているようです。
これらのことを考えると、時代に合わせてダンサーは
より高いジャンプ、高い足、多くの回転をこなさなければいけないようですね。
もちろん、古典バレエだけやるのではなく、様々なレパートリーをこなさなければいけません。
クラシックバレエ団だからと言って、コンテンポラリーを踊らないことはないですね。
21世紀ダンサーと先生が知っておきたいこと
これらの情報から何を学べると思いますか?
最近のダンサーは、足を高く上げなきゃいけないから、ストレッチ頑張るって?
それは一つの考え方かもしれませんが、
バリエーションを踊っているダンサーの足のポジションを比較しているって言ったじゃない?
つまり舞台の上で使えなければいけない柔軟性なので、
能動的な関節可動域の向上ということになります。
それは、関節を大きく動かすことができる筋力と、
ダイナミックに上げている足に振り回されない軸足の強さが必要だってこと。
しかも、バーレッスンのコンビネーションの長さ的には、
現代の方が短くなっているため、
体力づくりはレッスン以外でやらないといけないかもしれません。
もちろん、バーレッスンのピースは、
プリエ、タンジュ、グランバットマンなど1820年代、
センターレッスンがマイムだった時代とあまり違いはないということも分かりました。
違いがないというのは、新しい練習方法が追加されているわけではないけど、
踊りで必要な難易度は変化しているってことね。
私個人は、これらの情報から
ダンサーはバレエレッスン以外のトレーニング、
つまりエクササイズをサプリメント、補助として追加すべきだと思います。
これは、私だけの考えではないでしょう。
殆どのバレエ学校で、エクササイズクラスはありますから。
リハビリや、予防でエクササイズをすることの大切さが知れ渡っているからこそ、
バーレッスンとセンターレッスンの間のストレッチが徐々になくなり、
カフライズなどデータがあるエクササイズに変更されてきている様子が
例年行われているワールド・バレエ・デーでも見えますね。
また、私は変化する芸術に対応するため、指導者は勉強を続けなければいけないとも思います。
それは、流行を追いかけるわけではないけれど、
人間の体が安全に動けるための知識、つまり解剖学です。
もちろん、これも私だけの考えではないでしょう。
バレエ学校の多くに、解剖学授業がありますし、
ローザンヌ国際バレエコンクールのレッスンやコーチングなどでも、
解剖学用語を使って注意が聞こえます。
もう1つ追加するなら、時代と共にダンサーに求められるものは変わるから、
保護者は子供たちが子供の時のレッスンと、
彼らが将来ダンサーになるときに求められる基準が
変わっているかもしれないと理解しておくことが大切だと思います。
昔からこうやってきたから、という形で指導しているスタジオにいる場合、
ちょっと考え直す必要があると思います。
先生と同じく、保護者も理論的に情報を選ぶ力も必要だと思います。
未成年ダンサーにとって、金銭的な面から親がYES、NOというものしか選択することが出来ませんから。
どの時代でもダンサーはバーレッスンを立って受けていました。
どの時代でもダンサーは、体を使っていました。
21世紀ダンサーに知っておいてほしいこと。
それは、上達したいなら、まずは健康でなければいけないという事実です。
体を使う職業につきたかったら、体を使うトレーニングを受けたかったら、
一般の人達よりも健康で、強くなければいけませんよね?
このポッドキャストを聞いてくださっている皆さんなら、
このことを既に知っているとは思いますが、初心に戻ってもう一度。
生徒の安全と、将来の健康を第一に考えていないレッスンでは、上達はしません。
来週1月6日に、年に1度のDLS来日セミナーの全スケジュールが発表されます。
感覚ではなく、理論的に。
バレエ上達、テクニック向上、ケガ予防のための知識を
元バレエ学校専属治療家、解剖学とエクササイズ講師を務めたわたし、佐藤愛がお届けします。
今年も、皆さんの健康なダンス生活のサポートが出来ますように。
という願いを込めて、今日のポッドキャストは終わりにしましょう。
今年もどうぞ、よろしくお願いいたします。
Happy Dancing!