DLSポッドキャスト epi534 オリンピック委員会も体重測定に反対

今回は、スポーツと健康に関わるRed-SやLEAといった深刻な問題に焦点を当て、

ダンサーが抱えるエネルギー不足の影響とそのリスクについて解説しました。

ダンサーの健康を守るためには正しい知識と指導が重要で、夢を叶えるためには「賢い努力」が必要です。

子供たちの未来を守るための重要なメッセージが詰まったエピソードです。

Transcript

競馬が嫌いな佐藤愛です。

いきなり競馬!?と思った人がほとんどだと思うのですが、

もしオーストラリア、特にメルボルンのことをよく知っている人だったら11月だしね、と思うかもしれないですね。

 

11月最初の火曜日は、メルボルンカップと呼ばれる競馬の日です。

日本の競馬って、おじさんたちが新聞を片手に見ている感じじゃない?

私もそういうイメージが強かったので、

メルボルンに留学してきた時、「メルボルンカップで祝日です」と言われてびっくりしました。

 

race that stops nationという肩書がつくメルボルンカップですが、

本当に祝日にしてしまう、ビクトリア州にもびっくりかもしれません。

そうそう、こちらでは州ごとに祝日が異なります。

 

メルボルンカップも驚きですが、

オーストラリアン・フットボールの最終戦の日も祝日になります。

敬老の日、体育の日…日本の祝日は品がある気がします。

 

メルボルンカップとバレエ

どうして、競馬のために祝日になるんだろうか。

蓋を開けてみると、まぁ大きな大人のカーニバルなんですよ。

スーツかドレス、女性は頭には帽子かファシネーターと呼ばれる英国発祥の飾りみたいなものを付けます。

もしかしたら、英国ロイヤルファミリーの写真などで見たことがある人もいるかもしれません。

このようなドレスコードは、競馬と貴族の遊びというコネクションが残っていることを感じますね。

 

メルボルンカップは、1861年にスタートしました。

日本は江戸時代、絶賛鎖国中でした。

ファッション雑誌はセレブの服装を報道し、スポーツ番組は誰が何位だったかを報道します。

そして、オーストラリアのバックボーンなんて言われる、ファーマー達は馬について熱く語ります。

 

お酒がいっぱい出るもんだから、ニュースでは酔いつぶれた若者たちが

道端で吐いている様子が流れます。

日本の成人式みたいな感じ?

そこで大人たちが「最近の若い人は…」と語るわけです。

 

でも華やかな世界の裏には、ケガする馬の話もいっぱいです。

走るために作られた馬たちは、ケガをすると殺されてしまうんです。

それが、レース中のケガなら観客の同情を買いますが、

練習中にケガして、結果命を落とす馬も多くいることでしょう。

 

早く走れるように、馬に負担をかけないように

昔から細い体が良いと言われてきた業界のため、

ジョッキーたちにも摂食障害やボディイメージの問題がよく見られるとの報告や研究もたくさん見つかります。

https://www.theplaidhorse.com/2022/05/23/ride-and-die-a-look-into-why-riders-struggle-with-body-image-distortion-and-eating-disorders/

 

ええ、まだ馬の話をしていますよ。

まさか、古い歴史をもった、上流階級の娯楽の裏に、

昔の「美しい」と言われるファッションそのままでいることや、

飲酒や賭けなど、中毒や精神的な問題と密にかかわっているのにも関わらず、

関係者や周りの人達が、「特別な世界だから」と警告しないところ。

 

舞台裏で見られるケガや、走ることが出来ないだけでなく、命さえ影響するのに、

その部分にはスポットライトが当たらないことを、

バレエの世界の比喩として使っているわけではないですよ。

 

もちろん、誰かに負担をかけないように痩せなければいけないと思っていたり、

トレーニングの中で体重についてコーチに言われる部分の

パラレルワールドを指摘しているわけでもありません。

メルボルンカップの場合、優勝者には留学許可ではなく、2億円以上の賞金が出るようですが…

 

Red-SとLEA

新体操やフィギュアスケートは、バレエと似ているというイメージがありますから、

そのエリアの人たちが、痩せていることに対して恐ろしいほどの執着があったり、

そのエリアのコーチ達が、体重が減れば上達すると思い違えている可能性は簡単に考えつきます。

でも、競馬の話はびっくりしたかもしれません。

 

残念ながら、「痩せれば何でも解決する」という指導は古いスポーツコーチに多く見られ、

選手の健康を害しています。

選手、コーチだけではない世界でもそう。

有名どころでは、ナイキ。

私がナイキを購入しない理由もここにありますが、

話があまりにもずれてしまうので、興味があったら調べてみてください。

 

  • 痩せれば高く飛べる
  • 痩せれば早く走れる
  • 痩せればケガが減る

このような考え方がスポーツ界でも消えないため、

2023年にオリンピック委員会がRed-Sについてのステートメントを出しました。

 

Red-Sって何?と思う人もいますよね。

Relative energy deficit in sportsの頭文字をとった言葉で、

日本語では「スポーツにおける相対的エネルギー不足」と訳されます。

 

アスリートが経験する、生理学的および/または心理学的機能の障害であり、

問題のある(長期間および/または重度の)低利用可能エネルギーにさらされることによって引き起こされる

と定義されています。

 

  • エネルギー代謝
  • 生殖機能
  • 筋骨格系の健康
  • 免疫
  • グリコーゲン合成
  • 心血管系および血液系の健康

が低下する、という悪影響だけでなく、

認知や記憶、集中力やムードにも影響するため、

 

  • 心身ともに健康状態の悪化
  • ケガリスクの増加
  • スポーツパフォーマンスの低下

につながると言われています。

 

私が言わなくても、

スポーツ選手としてこれらは命取りだってすぐにわかるでしょう?

Red-Sを引き起こす原因がLEAです。

また分からない言葉が出てきたね。

 

Low energy availability の頭文字で、

食事によるエネルギー摂取量と運動で消費されるエネルギーとの間にミスマッチがあり、

体の総エネルギー必要量が満たされていない状態

つまり最適な健康とパフォーマンスを維持するために、

身体が必要とする機能を支えるエネルギーが不足している状態

と定義されています。

LEAが続くと、Red-Sを引き起こし、ケガやパフォーマンス低下につながるということ。

 

上達したいなら食べなきゃいけない

ちょっと難しい話が続いたので、簡単な話に戻ってみましょう。

バレエが上手になりたかったら、練習すべき?

答えはYESだよね。

正しい練習が出来ていたと仮定した場合、

練習を増やせば増やすほど、上達するよね?

 

でも、さっき見たようにLEAはRed-Sを引き起こします。

そしてケガやパフォーマンス低下に繋がってしまう。

練習しないと上達しないけど、エネルギー不足はケガにつながる…

このジレンマをどうにかするために、

ダンサーは食べなければいけません

 

食べる=エネルギーを補充することが出来る唯一の方法なんだから。

 

  • 上手になりたかったら、お菓子は我慢しなさい。
  • 痩せたら、ジャンプも高く飛べるし、ケガも減るよ。

なんて言っている先生がいたら、すぐに離れてください。

 

学校が終わって、急いでスタジオに向かい、

レッスンしなきゃいけない!という子がいたら、

直ぐに食べられて、お腹が重くならないけれど、ハイカロリーがとれる

チョコレートは便利なツールになるかもしれないんですから。

 

何よりも、出典元がなく、つまりエビデンスがなく、

医者でも、管理栄養士でも、心理士でもないバレエの先生が

ダンサーの食事に対して口出しすることはできないはずです。

 

18歳以下は体重測定をしてはいけない

さっき、「2023年にオリンピック委員会がRed-Sについてのステートメントを出しました。」

と言ったけれど、肝心のステートメント内容をお話していなかったよね。

ステートメントの中には、Red-Sの説明や、アスリート生命に影響する理由などがまとめてありますが、

そこには、

体組成評価(体重とか体脂肪とかを図ることね)は、

18歳未満では医療目的でのみ推奨されます

例外的な状況において、18歳未満のアスリートに対して体組成評価が正当化される場合がありますが、

このような決定は慎重に考慮され、アスリートの健康とパフォーマンスチームの間で合意を得る必要があり、

保護者の同意が必要です。」

と書かれています。

 

バレエの先生の独断と偏見で、

毎週体重を測らされ、みんなの前で言われる。

なんてことがあった場合、そのスタジオには二度と戻らないように。

 

オリンピック選手で、世界トップのチームやコーチがついている場合でも、

原則として体重測定はしない

例外で、体重測定をしなければいけないことがあったら、

選手の健康、チームの合意、そして保護者の同意が必要

 

だったとしたら、日本のバレエスタジオで

勉強していない先生で、医療チームでもない先生が出来るわけがありません。

 

そうは言っても、2024年3月に一時帰国していた時、

日本の有名な、オリンピック選手も出している新体操チームの話を聞きました。

一日10時間以上の練習や、体重測定、

多くの選手が疲労骨折の繰り返しで、選手として出ているそうです。

中にいる人が訴えたらいいのに。

 

見て見ぬふりをしている人たちも同罪だと私は思います。

もし「世界大会のために必要」とかの言い訳があるなら、

どうしてオリンピック委員会の出している最新情報を考慮しないんでしょうかね。

 

まぁ、最新情報でなくても、すこーしでもスポーツ科学を齧っていたら、

  • ケガしながら練習
  • 10時間以上の練習
  • 体重測定

がパフォーマンスの低下に繋がることを知っているはずなんですが。

この子たちが出来る一番のレベルで踊らせてあげたかったら、

体重測定は、絶対にやらない行動だと強く言って、終わりにします。

 

ダンサーだけでなく、指導者&保護者も勉強しよう

競馬の話から、すごいところまで来ましたが、

今日のポッドキャストで皆さんに知ってほしいことは次の3つ。

 

  1. 食べることは悪じゃないよ
  2. ダメな先生、スタジオにいるなら抜け出そう
  3. 知識は夢を守ります

 

指導者なら、自分の仕事なんだから

知らなかった…だけでは足りません。

ダンサーは自分の夢なんだから、自分で守りましょう。

理論的に、頭を使って上達していきましょうよ。

 

保護者は、保護する役目があるんだから、

ほかの保護者、つまり素人や、SNSの情報、つまり知らない人の意見に流されず、

子供たちを守ってあげてください。

 

DLSではこうやってポッドキャストでも情報を発信していますが、

メルマガや、オンラインセミナー、来日セミナーなど、

様々な方法で、生徒の安全と将来の健康を第一に考えるバレエ界になるように情報提供をしています。

 

特に今日の内容は、多くのダンサー、先生、保護者に知ってもらいたいこと。

先生たちはぜひ、スタジオのラインなどで、保護者やダンサーにリンクを送ってあげてください。

 

匿名で応援してくれる人たちは、

ポッドキャストのレビューや、YouTubeの該当ビデオの高評価をしてくれると

悩んでいるダンサーたちのもとに情報を届けることが出来ます。

どうぞよろしくお願い致します。

もう、ケガのリスクなど分かっている事実なんだから、変えていけるといいですよね。

 

ではまた来週のポッドキャストでお話しましょう。

 

Happy Dancing!

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