あなたが見る現実と他の人が見る現実は、異なることがあります。
同じ風景を見ても、あなたが感じることと他の人が感じることは違うかもしれません。
今回は、ダンサーの股関節に焦点を当て、同じレッスンを受けても
人によって異なる受け取り方やケガのリスクがあることをお話しました。
安全に踊り続けるためのヒントを得たい方におすすめです。
Transcript
皆さんがこのポッドキャストを聞いてくださっている時には、
私は京都か奈良、もしくは飛鳥エリアにいるはずです。
レコーディングをしている8月後半時点では、まだどういうトラベルプランにするのか考えていません。
きっと行き当たりばったり旅行になっているかと思います。
京都&奈良、といったら修学旅行でしょう。
私も高校生の時に行きましたが、ちゃんと記憶には残っていない気がします。
金閣寺とかメジャーなところに行ったはずなんだけど、
思い出せるイメージは教科書の金閣寺だけです。
なので、今回リベンジ出来るんじゃないかとも思っていますし、
オーストラリア人の夫を連れて行くので、外国人の目から見える風景というのは
どういうものなのかを楽しめるかな、と思っています。
あなたの現実と、周りの現実は違うことがある
同じ景色を見ていても、それに対して
どう感じるか、どう見えるか、は違いますよね。
私は多分、教科書の金閣寺とか、高校生の時にここに来たなーなんて
過去の記憶と照らし合わせていると思いますが、
彼にとっては、鬼武者というゲームの中で出てきた単語を拾い集めているのかもしれません。
朝の電車で、寝ている人達がたくさんいるのは、
高校が電車通学だった私にとっては普通の景色ですが、
10年以上前に彼が初めて日本に来たときは、「なんて悲しい景色なんだ」と言っていました。
朝からみんな疲れ切っているのが、悲しく見えたそうです。
今月のポッドキャストでシリーズをお送りしているダンサーの股関節ですが
同じ話を聞いていても、違う受け取り方があると思います。
股関節のケガをしているダンサーだったら
「耳が痛いな」とか「小さいころからこういうことやってきたな」という
気づきになるかもしれないけど、
同じ年齢や環境のダンサーでも、股関節の痛みを感じた事がない人だったら
「また、愛さんストレッチがダメって話してるよ」
と思うかもしれません。
ラッキーなことに、同じレッスンを受けていても
ケガしないダンサーは存在します。
理由は様々ですが、今回のテーマに合わせてみると股関節の形。
- 臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)か否か、
- 臼蓋形成不全だったとしても、軽症なのか重症なのか
- 子供の頃にどんなレッスンを受けてきたか
- 現在の身長や、レッスン内容
- 部活をしているか、学校までの距離はどんな感じか
など、様々なエリアが影響します。
臼蓋形成不全は股関節の形の問題だってお話しましたよね?
球関節、ボールとソケットで出来た関節の
ソケット部分の深さというか浅さの問題です。
ですが、浅いソケット部分といっても、
正常と言われる形より、すこーし浅いだけなのか、
かなり浅くて、大腿骨骨頭との接地面が殆どないのか
では状況が異なります。
仮に同じ臼蓋形成不全のダンサーが2人いたとしても、
子供の頃にゆっくり、正しいレッスンを受けてきた子と
先生が上から押すような、床で行うストレッチをしてきた子では
靭帯損傷の有無や、ストレッチに関する考え方などが変わってきますね。
股関節とは、上半身と下半身を繋げるカナメとなる部分ですし、
ダンサーの股関節に痛みが出るシチュエーションは、足を上げている時が殆どなので
足の長さ、つまり身長が影響するのは分かると思いますし、
レッスンで足の高さばかりつくるような振付なのか
デヴァン、アラセコンド、デリエールのどの方向にあげる振付がどれくらい入っているのか
などレッスンプランの偏りも影響することが分かるでしょう。
バレエはやっているけど、運動部でスクワットとかランニングなどをやっている子と
バレエの他には塾で座っている子だったら
股関節周りの強さに影響がでるのも分かりますよね。
何が言いたいかというと、
あなたが大丈夫だったからといって、全員が大丈夫なわけではない。
ということ。
そしてこれは、先生たちに伝えたいです。
生徒達のレントゲン、持っていないでしょう?
生徒達のレッスン以外の運動量を考慮して、クラス分けしていないでしょう?
経験はとても大切です。
でも、皆さんが昔やってきたレッスンを提供している「だけ」だったら
それに当てはまらない子達のケガのリスクは高くなってしまいます。
皆さんはバレエの世界に残って、バレエの先生という職業についたかもしれないけど、
同じスタジオに通っていた子達の多くは
バレエを辞めたでしょう?
その理由にケガや痛みもあったはずです。
股関節の痛みがあったら骨盤をチェックして!
「昔からの癖が直っていないから、あなたはピルエット出来ないのよ」
と言われても、
「じゃーどうしたらいいんだよ!」
とツッコミたくなってしまうのと同じで、
先生たちにお説教をしていても勉強にはなりませんよね。
1か月かけて勉強してきたことを復習してから、
今日のテーマ、骨盤についてを見ていくことにしましょう。
まず、9月最初のエピソードでは股関節の解剖学を復習しました。
- 股関節とは骨盤と大腿骨で出来た関節である
- 球関節と言われる形をしていて、様々な方向に動く
- 球関節とはボール部分とソケット部分があり、ボール部分は大腿骨骨頭、ソケット部分は寛骨臼と呼ばれる
という感じでしたね。
そしてエピソード526では
- ソケット部分の形の問題を臼蓋形成不全と言う
- 統計で見てみると、アジア人の女性に多く見られる疾患であるから、日本のダンサーやバレエの先生だったら知っておくべき
- ただ股関節の痛みがある人全員が臼蓋形成不全なわけではないし、臼蓋形成不全があっても痛みなく踊ることが出来る
という事をお話しました。
先週のエピソードでは
- 股関節の形に関係なく、使い方に問題があったり、やりたい動きに対し柔軟性はあっても筋力がない場合、股関節に痛みが生じることがある
- 股関節の形に関係なく、股関節の大きな可動域を必要とするダンサーは、股関節周りの筋肉を強化すべき
という話をしましたよね。
どう、覚えてる?
エピソード526でお話したように、バレエ解剖学の勉強のコツは繰り返しです。
何度も繰り返し勉強することで、気が付いたときには
股関節と言われたらイメージが頭に思い浮かぶくらいの知識が身についていきますから、
1度だけポッドキャストを聞いただけで
分かるようにならないって覚えておいてくださいね。
くれぐれも、1回やっただけで分からないからって
- 私には才能がないんだ
- バレエ解剖学は難しいからやめた
って思わないでくださいよ。
なんだって、やりがいのあるものは簡単ではありませんからね。
足は高く上げたいし、ターンアウトしたいけど股関節は痛い。
股関節周りの強化をしていきたいけど、憧れのダンサーみたいに足を高く上げる柔軟性も欲しい
じゃ、どうすればいいの?という人たち、ここから集中して聞いてね。
関節は2つ、もしくは2つ以上の骨がぶつかるところだ、と説明しましたよね?
大腿骨は外旋(ターンアウト)したいし、
屈曲(デヴァン)、外転(アラセコンド)、伸展(デリエール)したい!
でも問題がある…という場合、股関節をつくるもう1つの骨、骨盤の助けを借りましょう。
ポッドキャストでも、セミナーでも、私の書いた本でも。
様々なところで、能動的に膝を伸ばした形で
人間が動かせる股関節の可動域は思ったよりも小さいという話をしていると思います。
解剖学用語に慣れてきた皆さんなら、どういう意味か分かるよね?
骨盤を動かさず、膝を伸ばして、自分で動かせる股関節の動く幅は、思ったより小さいの。
- 屈曲(デヴァン)では60-65度
- 外転(アラセコンド)では45度
- 伸展(デリエール)では15度
が平均的な最大可動域と言われています。
もちろん、今まで勉強してきた知識を使うと
臼蓋形成不全の人は、多分もっと足が上がる可能性があります。
でも、受動的可動域があったとしても、能動的可動域があるとは言い切れませんが。
「やっぱり、ダンサーは人間の体を超越した柔軟性が必要なんじゃない!
だからこそ、ストレッチしないとアラベスクが15度だったらプロダンサーになれるわけないもの!」
と思った人、ちょっと止まってみようか。
確かに、ダンサーは電車で寝ているおじさんたちよりも体が柔らかいと思います。
でも、2つ考えてほしいことがあるの。
1つ目。
平均的な最大可動域とは、誰でも、練習しなくても出来る動き、とは言っていません。
最大可動域を使うって、思ったより体のコントロールが必要なので。
バレエを始めたばっかりの人たちは、まずはこの最大可動域を使えるように練習していきます。
そう、骨盤をずらさずに、膝をしっかりと伸ばした
タンジュ デヴァンやアラセコンドは、この練習なんですよね。
2つ目。
ダンサーだって人間です。
だから、人間的に不可能な動きや、人間の体を壊すような動きをしているわけがありません。
今回のオリンピックでもスポーツ選手の年齢が上がっているのが分かるように、
ダンサーの寿命は伸びているようです。
多くのカンパニーで、出産後に戻ってくるプリンシパルたちがたくさんいます。
バリエーションの比較研究では、
現在のバレエは、昔のバレエより高い足の高さが見られるそうです。
ただし、人間が進化し、股関節の形が変わっているわけではありません。
この2つのデータポイントから、
医学が進み、ダンサーのトレーニングが普及している今、
足の高さを安全に育てることが出来るから、
年齢が高いダンサーも踊り続けられると考えることが出来ると思いませんか?
そして、ダンサーが足を高く上げる秘訣は
骨盤の傾きにあるんです。
骨盤が動かないと、足は上がらない
コンパスを思い浮かべてみてください。
コンパスって分かる?円を書く方の文房具のコンパスね、方位磁石の方ではなくて。
コンパスを45度くらい開いたとしましょう。
このコンパスは、これ以上角度を開くことは出来ません。
間違った方向への努力は、これ以上開かないって言ってるのに、
ぎゅーぎゅー開こうとする行動。
多分壊れます。
壊れなかったとしても、ねじが緩くなることでしょう。
でも、コンパスの持ち手部分を傾けたら?
そうしたらコンパスが傾くので、鉛筆部分は高く上がって見えますよね?
勘のいい皆さんなら分かると思うけど、
コンパスの持ち手は骨盤です。
骨盤の方向が変われば、ソケット部分の方向が変わるため、
ボールの方向も変わります。
股関節のボール部分とは、大腿骨のことでしたよね?
つまり、大腿骨の方向が変わります。
太ももの方向がかわれば、バレエで言われる足の高さも変わります。
構造上これ以上開かないコンパスを
もっと開くように!ってギューギュー押していたら
足の部分の素材と、持ち手下の部分の素材がぶつかるでしょうね。
これを、股関節インピンジメント症候群といいます。
股関節が
- 詰まった感じがする
- 挟まった感じがする
というダンサーたちの症状です。
インピンジメントとは、何かが挟まるケガの名前です。
骨と骨がぶつかる場合もあるし
関節の中の組織、関節周りの筋肉が挟まる場合もあります。
壊れなかったとしても、無理やり動かそうとしていたら、
コンパスの留め具部分が緩くなると思いますよね?
これのことを、マイクロインスタビリティーと言います。
マイクロとは、小さなという意味
インスタビリティとは、ステーブル、安定という言葉の逆。
関節不安定症を指します。
ボールとソケットが上手くかみ合わず、緩くずれてしまう。
本来ならボールがソケット内でスムーズに動く構造なのに、
凸凹がかみ合わず、関節本来の動きが出来ない。
だから、ダンサーの股関節マイクロインスタビリティとインピンジメント症候群は
ほぼ一緒に見られます。
- はまっていない感じがする
- パキって動かすと、元に戻って動きやすく感じる
これらはマイクロかもしれませんが、
不安定症だったり亜脱臼症候群の可能性があるわけです。
骨盤の安定は、高く上がる足の土台
骨盤を傾けるとは言いましたが、
- 骨盤を柔らかくする
- 骨盤の柔軟性を上げる
とは言っていないですから気を付けてくださいね。
そもそも、骨盤という骨の塊の大きな仕事は、Protect、内臓を守る事です。
そう簡単にずれたり、ゆがんだりしませんから。
巷では、そう言われていますけど…
「骨盤を傾ける練習が必要なのね!」
と突っ走る前に聞いてください。
正しい場所で骨盤を保つことが出来なければ、
骨盤を傾けたところで保つことは出来ません。
つまり、骨盤のプレースメントが正しく出来ていなければ
足を高く上げることは出来ないんです。
骨盤のプレースメントの大切さについては、
私の本「バレエの立ち方出来てますか?」でもお話してますし、
昔のポッドキャスト、インスタライブなど様々な場所で取り上げているから
今日は割愛しますよ。
でも、
- 足を高くあげたかったら
- 自分の持っているターンアウトを踊っている間保ちたかったら
- 股関節の痛みなく、踊り続けたかったら
骨盤の安定を徹底しなければいけません。
股関節の形に関係なく、足を高く上げる土台になりますから。
そして、骨盤を安定させる筋肉は、床でのストレッチでは強くなりません。
だって、床が骨盤を支えてくれちゃうから。
骨盤を自分の足で支えること。
これが、踊りで使える骨盤の安定です。
このように股関節の構造や、足を高く上げるメカニズムを理解していないまま、
床で「骨盤をずらさないように!」と前後開脚をしていたとしたら、
- いったい何をストレッチしているんでしょうか?
- 人間の体はその方向に動くのでしょうか?
- それを指導している先生は、正しいやり方を勉強しているのでしょうか?
バレエをやっているから、スプリッツの指導が出来る
と思っている保護者の方がいたら聞いてください。
バレエのシラバスには、前後開脚や開脚、胡坐のポーズなどは含まれていません。
ヨガにはあるかもしれませんが。
股関節の痛みはレッスンを振り返るいいチャンス!
このシリーズ中、何度もお話していますが、大切なのでもう一度。
- ストレッチが絶対にいけない
- スプリッツしたら絶対にケガをする
とは言っていません。
ただ今股関節が痛いダンサーたち、
同じことをしていたら、同じ結果しか出ませんからね。
何かを変えないと、違う結果には行きつきません。
だからこそ、股関節の痛みがある場合
レッスンを振り返るいいチャンスにしてください。
股関節の構造について勉強をしてみるのも良いですし
ダンサーに見られやすい股関節のケガについて知識を身につけることも
体を守り、ケガについて理解するために必要かもしれません。
他人の体を預かって指導している先生たちは、
ご自身の「経験」だけではなく、生徒たちの体の作りも理解してあげてください。
先ほどお話した、「同じことをしていたら、同じ結果しか出ない」という言葉を思い出してみましょう。
もし、ご自身がケガやテクニックの問題があって
自分が昔やっていたレッスンをしていたら、
あなたの生徒さんも同じシチュエーションに導いているかもしれないですよね?
生徒のケガや痛みは、指導者としてレッスンプランを見直すいいチャンスだと思います。
もちろん、全てのケガが先生の責任ではありません。
生徒たちが、SNSを見て、有名ダンサーの真似をしてケガしている場合、
私たちがいくら正しいことを伝えていても、痛みは減らないでしょう。
だけどね、
- レッスン中に足が高く上がる子だけ褒めてないかな?
- レッスン前にストレッチしている姿の写真をSNSに投稿して、「皆頑張ってます」なんて言ってないかな?
- 生徒が痛みについて相談出来る環境を作っているかな?
という確認は出来ると思うんですよ。
- スタジオで出来ること
- 言わない方が良い言葉
- 怪我した生徒が安全にレッスンに参加出来る方法
などを含む、より深い股関節インピンジメント症候群については、
教師のためのライブラリを参考にしてください。
ダンサーに見られやすいケガをクラスに取り上げていますし、
1年会員の皆さんには、3か月に1度、ライブのワークショップも行われます。
生徒さんから相談されたケガのクラスがあるか知りたかったら
Hello@dancerslifesupport.comにメールして教えてくださいね。
クラスがない場合、新クラスとして追加するアイデアにさせていただきます。
せっかくこのシリーズで勉強したし、
股関節だけクラス受けてみたいな、と思った人も
1か月オンデマンドクラスにアクセス出来る
1クラスパスがありますからご利用くださいね。
ということで、9月のダンサーの股関節シリーズはここまで!
楽しんでいただけましたでしょうか?
このように1つのトピックについて勉強していくスタイルがお好みでしたら
メールか、インスタのDMで教えてくださいね。
Happy Dancing!