背中の動きを「しなやか」と形容するスポーツ、芸術って多くはないと思うんですが、
バレエダンサーは背中がしなやかであることがスキルの一つとなっていますよね。
でも、しなやかな背中って何か?とバレエの先生に聞いたらどう答えるでしょうね?
- 柔らかい事?
- たくさん反れる事?
しなやかな背中を手に入れるために、どんな努力をしていますか?とダンサー達に聞いたらストレッチ、というのかしら?
でもさ、背中を柔らかくするためのストレッチ=反る動きだと思われがちだけど、
- 反る動き=背中は縮まり、おなかが伸びる
だからね?
だよね??
腹筋を伸ばすと、しなやかな背中になる、ってどうして思っちゃうの???
という謎はまた次回解いてみる事にして、
今日はバレエで必要な背中について考えていきましょう。
今回、解剖学用語がたくさん出てくるし、長いので文章を読むのが苦手な人はこちらのビデオからどうぞ。
「しなやか」という言葉の意味は?
ネット辞書によると、
しな‐やか
[形動][文][ナリ]
- 1 弾力があってよくしなうさま。
- 2 動きやようすがなめらかで柔らかなさま。
- 3 姿態などがなよなよして上品なさま。たおやかなさま。
だそうです。
辞書のRabbit Holeってありません?
私は上を調べた時に
- しなう
- なよなよして
- たおやかな
という言葉の定義がよくわからなかったので、それらを調べに行かなければいけませんでした。
こうやって辞書だけ読んで小一時間…不思議の国のアリスのように、どんどん穴に落ちていきます笑
しなう=折れずに曲がる
という言葉の形容動詞がしなやかな、ということなんだって!
たよやか、しなやか、というのは日本特有の意味合いがある部分もあるんだけど、英語で一番近いのはsuppleです。
- supple=順応性のある、素直な、従順な
あれ?
しなやかとか、柔らかいとか出てきていないよね?
でも、順応する、素直ということは、柔軟ということなの。
頭が硬い人の順応性は低いだろうし、素直に謝ったりできないでしょ?そういうこと。
バレエでいう「しなやかな背中」
次は、辞書の世界だけでなく、バレエの世界での「しなやかな背中」を見ていきましょう。
オーディエンス(もしくは先生)がいうしなやかな背中、というのは皮膚が柔らかいとか、筋肉の触り心地がしなやか、という事ではないですよね?
辞書+解剖学の知識で考えてみると
①しなやかな=柔らかいこと「だけ」ではなく
- 動きが滑らか
- 折れずに曲がる
- 上品で、美しい(たおやか)
- ダンサーの動きに対して素直に順応する
②背中=背骨の関節(関節=動きが生まれるところ)
①+②から、ダンサーに必要なしなやかな背中とは
背骨の持っている可動域を「自分」で「思ったように」「なめらかに」使える事
だと結論付ける事が出来ますね。
最初に説明したストレッチ=伸ばすこと、というのでも少し気づいてくれたと思うけれど
前後開脚で後ろの足に頭がつくこと=しなやかな背中ではない事が分かりましたか?
- しなる≠1か所だけ曲がる
- しなる=折れずにカーブを描く
ということも頭に入れて置きましょうか。
だから腰だけ曲がっていて、首に力が入っているアラベスクではバレエ的ラインが生まれないんだろうし、
カンブレデリエールをしたときに、首が折れて、顎が上がったポジションになってはいけないんですね。
大きく反る動きが必要な振付であれば別だけど、背骨の可動域が大きいことが「しなやか」ではない、というのも大事な点ですね。
- 滑らか
- 折れずに曲がる
- たおやか
- 振付に順応する
という定義の中には、
- 大きく広げる
- 後ろだけたくさん反る
というのは含まれていないんですから。
もちろん、柔軟性がいらないとは言っていません。
だけど、
柔軟性と筋力の両方があって、初めて、自分の持っている可動域を最大限に使える
ということは頭に叩き込んでおいてください。
バレエの先生だったら自分のレッスンプランファイルのトップに書いておいてもらってもオッケーです。
指導ノートでも結構です。
毎回指導するときに見たり、指導内容を考えるときに開く場所に書いておいてください。
筋力がないと「自分」で「思ったように」「なめらかに」使えない。
背骨の動きを確認しよう
バレエの振付に出てくる背骨の動きは
まっすぐ⇔反る
の繰り返しではありません。
脊柱は頸椎、胸椎、腰椎、という3エリアに分かれていて、
それぞれのエリアに得意不得意がありますが、それはすでに勉強したね。
背骨は基本的に6つの方向に動きます。
- 屈曲
- 伸展
- 側屈 右
- 側屈 左
- 回旋 右
- 回旋 左
背骨ぜーんぶでこの動きをする場合もあるし、首だけ屈曲、とか腰だけ伸展とか部分的にも出来るので
6(動き)×4(エリア+全体)=24のバリエーションがあります。
これらが
- 滑らか
- 折れずに曲がる
- たおやか
- 振付に順応する
に出来ると、しなやかな背中になるんだろうな、って分かってきましたか?
では自分に聞いてみましょうか。
背骨の24の動き、全ての方向で
- ストレッチしてますか?
- エクササイズしてますか?
- レッスンで指導していますか?
背骨のポテンシャル:動きを混ぜ合わせる
オッケー背骨は24つの動きがあるのねー!と思った方、実はもっと動くんです。
違う動きを組み合わせる
基本の動きから、2つの違う動きを混ぜ合わせる事ができます。
首を屈曲+回旋=ブラバーから1番ポジションに腕を持ち上げるときの首の角度
頸椎伸展+回旋=アロンジェなど、上を向く首の動き
屈曲と伸展はプラスマイナスゼロになっちゃうので一緒に行うことは出来ないけれど、
同じように、3つの動きも混ぜる事が出来ます。
- 屈曲+側屈左右+回旋左右
- 伸展+側屈左右+回旋左右
エリア別に違う動きを行う
動きを混ぜ合わせるだけではなく、エリア別に違う動きをすることも可能です。
首は右へ回旋+胸は左へ回旋=
第四アラベスクみたいに絞ったポジションが生まれます。
首は左に回旋+胸と腰は左に側屈
=エカルテ・デリエールで足を上げている胴体部分ですね。
文章で説明していると分かりづらいので、上であげた動画の13分あたりからを見て一緒にやってみてくださいね。
しなやかな背中を手に入れるために何を練習する?
今までの話をまとめると
バレエダンサー特有の「しなやかな」背中というのは
- たくさん反れる
- 関節が柔らかい
というよりも
- 自分の持っている背骨の可動域(いろんな方向に動く!)を自分で思ったように、滑らかに、折れずに使う事
だと分かりましたね。
では次の質問。
しなやかな背中を手に入れるためには、具体的には何を練習すればいいのか?
背骨は様々な方向への動きが可能ですが、皆さんの背骨、全てが同じようには動かないでしょう。
- アラベスクに上がりやすい足がある
- 回転がしやすい方向がある
- ポーデブラで肩が上がらず、大きく動かせるほうがある
というように人間の体には得意、不得意があります。
どんなエクササイズでも、テクニックでもそうですが
- 動きづらいところの練習
- 動きづらい方向の練習
を行うことで苦手克服というのは出来ますよね。
しなやかな背中、でも同じことが言えるの。
私がインスタライブで頸椎の基本6方向の動きをやってみた時、
- 屈曲に問題はない
- 伸展は弱い(コントロールが難しい)
- 回旋は左の可動域が狭い
- 側屈は両サイドとも大変
ということが分かりました。
なので私の首の場合は
- 伸展の強化
- 側屈の練習を増やす
- 回旋は左を多めに行う
を考えてエクササイズプログラムを制作する必要があります。
(レッスンだったら、レッスンプランだね)
これに当てはまるエクササイズプログラムは星の数ほど制作できますが、
皆さんが分かりやすいように、私の本(立ち方・ターンアウト・プリエ)からエクササイズを選んでみました。
エクササイズが分からない人は、ただ苦手な方向に何度も動かす、というだけでもいいスタートになりますよ。
特にレッスン前のウォームアップとして立って行うと効果的。
私と一緒にダンサー用エクササイズを毎週行いたい人はボディコンサークルもチェック。
<頸椎伸展強化エクササイズ>
- 四つん這い手足上げ(立ち方p90)
- バックエクステンション(立ち方p97)
- デッドリフト(プリエp139)
で首の後ろ側の筋肉をアイソメトリックに鍛えた後
- 小っちゃいコブラ(立ち方p128)
で伸展のコントロールを練習します。
<頸椎側屈強化エクササイズ>
- 腰方形筋ストレッチ(ターンアウトp136)
- 左右のバランスを整える1&2(立ち方p130)
首まで側屈を意識して行うのと共に、僧帽筋上部の緊張が首の動きに影響しているということを考えて
- 菱形筋エクササイズ(立ち方p118)
- VとW(プリエp100)
で肩甲骨まわりと、僧帽筋下部をサポートする筋肉を育てるエクササイズも導入。
<頸椎回旋強化エクササイズ>
- ブックオープナー(立ち方p110)
で頭蓋骨の重さをサポートされたままで回旋の練習をして
- 片足ボールパス(プリエp136)
で動きの中、バランスを取らなければいけないシチュエーションで使えているか?を確認。
もちろん、動きづらい左側を多めに行います。
注意点としては
動きづらい部分や方向をカバーしようと、ほかのエリアが助けに来てしまう事。
- 胸椎を反らせるのが苦手なので、腰から反ってしまう
- 首を回旋するのが苦手なので、肩も一緒に動いてしまう
などレッスンでも見る事がある「ズル」ですね。
大きく動くのが目的ではなく、苦手克服がゴールだということを常に頭に入れてくださいね。
しなやかな背中と体幹の強さ
いくら背中のストレッチをしても、エクササイズをしても、
イマイチ背中を強く保ったり、レッスンの中でしなやかに使えない…
と悩んでいるダンサーがいたら、体幹の強さを再確認してください。
- 背骨が入っている部分=体幹
だからです。
なので3月のオニカツではボディのスクエア(=体幹部分のホールド)を勉強したの。
どの方向でもいいけど、背骨が「しなう」とするじゃない?
そこから「戻ってくる」、つまりまっすぐになることが出来なければバレエダンサーの背中は作られません。
だからレッスンでも
両手バー、足は低く(ほぼアテール)で体を保つ強さを作ってから
- ポーデブラ
- 脚の高さ
- 体の方向
などが複雑になってくるわけ。
基本が大事、っていうとなんだかクリシェーな感じだけど事実なんですよね。
まとめ:しなやかな背中を手に入れるには
「しなやか」という意味を正しく理解した上で
- 背骨の柔軟性と筋力の両方が必要
- 体幹の強さは絶対条件
- 背骨は様々な方向に動くので、練習するときは苦手克服を意識+体幹の強さ
とすると、バレエダンサーに必要なしなやかな背中を手に入れる事が出来ます。
このストレッチだけすればOK!ではなく
- 体の動きとバレエテクニックへの知識
- 体の声を聴く力
- 継続して努力出来る自分
がしなやかな背中を作ってくれるということですね。
そうそう、高く足を上げるためにもしなやかな背中は絶対に必要。
なぜか?というのはビデオ33:08で2分かからず説明しているのでそっちもどうぞ。
Happy Dancing!