懺悔記事で書いたように、DLSには2013年から書き溜めた1000以上の記事の中で、男の子向けの記事が1つしかありませんでした。
解剖学やエクササイズ記事など、性別に関係なく使える情報を提供しているつもりでしたが、ポワントの記事は多数存在します。
プロダンサーを目指す子供たちを応援するために保護者が知っておきたいことを勉強するセミナーの名前も「バレリーナの卵」という題名でした(今はダンサーの卵、に変更されています)。
どれだけ、自分の中に盲点があったのか2020年に気づいたというのは遅すぎる気がしますが、
better late than neverという言葉を胸に、2020年後半では、ブログ記事で使われる言葉、セミナー名、コンテンツ内容を改善することができました。
歴史をひも解いていくと、宮廷ダンスがバレエになったという事ですし、ルイ14世がバレエが大好きで、彼の先生が5つの足のポジションを作ったという事。
たぶん多くの人が持っているバレエ歴史の教科書 芳賀直子さんの「ビジュアル版 バレエ・ヒストリー」(世界文化社)では
バレエを踊るのはほとんどが男性でした。女官など女性が登場することもあったようですが、中心は男性だったのです
と書いてあります。
時は流れ、21世紀、場所はルイ14世のいたフランスの宮廷から離れて、アメリカ。
2019年8月にアメリカの「グッドモーニング・アメリカ」というテレビ番組司会者が、ロイヤルファミリーのジョージ王子がバレエを習う予定というニュースに対して、嘲笑い、いつまで続くかな、と発言しました。
Lara Spencer, a host, laughed at the news that Prince George was planning to study ballet. “We’ll see how long that lasts,” she said.ーThe New York Times
この言動に多くの人達が立ち上がり、#boysdancetoo というハッシュタグがSNS上で流行し
抗議のために、タイムススクエアでは300人を超える男性ダンサー達が集まりバレエレッスンをした
というニュースを皆さんも見たと思います。
SNS炎上だけでなく、テレビなどトラディショナルメディアが注目したため、
このハッシュタグを追いかけていくと様々なダンサー達のインタビューが読めたり、意見を読むことが出来ます。
そこから読み取れるのは大きな痛み。
私自身の勉強のためにも、自分の得意分野以外のリサーチスキルを上げるためにも、今日は男性ダンサーがぶつかる壁を研究していきたいと思います。
男性ダンサーは虐められる
ウェイン州立大学の研究によると、11%のバレエをやっている男の子が、踊っているからという理由で「Physical harm」を受けている。
93%が 「Teasing and name calling」された経験がある、と書いてあるそうです。
元となっている論文にアクセスする事が出来なかったので、この研究がいつのもので、どれくらいの規模で行われたのか分からないのと「Physical harm」とは何を指しているのか?を確認することは出来なかったのですが、
普通に訳すると虐待になります。
Teasing and name calling というフレーズは虐められたり(teasing)、悪口を言われる(name calling)となります。
2014年の研究(上の研究と同じプロフェッサー、 Prf. Doug Risner)によると、
- 93%が悪口やいじめを受け、70%は言葉の虐待や身体的暴力を受ける
- 10代で(文章の流れからバレエだと思われる)踊る男の子は踊らない10代の子たちに比べ7倍も虐められる
とワシントンポストには書いてありました。
こういう体験をしてきた人たちが、有名なテレビで笑われた6歳のジョージ王子を見て立ち上がったのが #boysdancetoo ムーブメントのようです。
男性ダンサーへの理解が少ない
この件をリサーチしていたら不思議な記事が出てきました。
西オーストラリア大学の日本学講師の方が執筆したもので、”「バレエ男子」をありのままに受容する、日本に世界は学ぶべき”という題名の記事です。
記事自体は日本の方?が書いたようですが、元が英語だったらしく、英語でのタイトルは
「Boys dance too – and in Japan they are celebrated」だったので
世界に学ぶべき=they are celebratedになるのかな?って疑問には思いましたし、
記事の中で日本語版になったら原文から飛ばされている部分があるので不思議でもありました。
日本語版と英語版、両方ともリンクを貼っておくので是非読み比べてみてください。
文章の中に
#boysdancetooの動きは、単にバレエ男子のスポーツ的でマッチョな側面に注目するのではなく、彼らをより豊かな意味合いで肯定的に捉える日本的アプローチを反映している。
とあって、理由は
日本のメディアは男性バレエダンサー(と、その「親戚」であるフィギュアスケート男子選手)を1つの手本として位置付ける。テレビや数々のコンクール、専門誌のおかげで、ダンスをする少年を応援する風潮が根付いている。
だそうです。
同時に安倍元総理がローザンヌ受賞者と一緒に写っている写真もありました。
メディアが取り上げている=セレブレイトされている、という単純なコネクションでいいのか?は疑問ですけど、
文部科学省と?昭和音楽大学バレエ研究所の「日本のバレエ教育環境の実態分析」によると、
- 男性バレエダンサーの定着へそれなりの前進
と書いてあり、その理由を
- マスメディアへの露出増→ロールモデルの定着
と書いているので、この記事を書いた方は、そこから情報を読み取っているのかもしれません。
産経デジタルでも「バレエ男子」増殖中…というなんだかその表現どうなの?という感じなタイトルの記事もありました。
よって、メディアに取り上げられているか否か、であれば多少取り上げられているみたいです。
でもバレエを習っている人たちの2パーセントちょっとしか男性ダンサーがいないため、彼らの問題や悩みへの研究も少なく、結果理解が少ないんだと思われます。
父親の理解が少ないらしい
Huffington postの2018年の記事によると、アメリカの男性ダンス人口は全体の10%だそう。
日本の2016年レポート(上)だと2.2%なので日本よりも浸透しているといえるかもしれませんが、
Haffington Postの方は、バレエをやっている男の子人口でなく、ダンス人口を数えているのではないので同等に比べないでくださいね。
こちらの記事にも、Prf. Doug Risnerのリサーチが乗っています。
2009年に出された「Stigma and Perseverance in the Lives of Boys who Dance: An Empirical Study of Male Identities in Western」というものらしく、それによると
- 男性ダンサーのうち、お父さんが応援してくれていると答えた人は32%だけ
だったそう。
つまり、男性ダンサーの大多数が父親のサポートなしで踊っているというように記事には書いてありました。
この記事はScott Gormleyというドキュメンタリー映画「Danseur」のディレクターが書いたもので、
その映画のために2年かけて若い男性バレエダンサーたちの苦しみを聞き、映画を撮ってきたそうです。
日本語にもなっているので(そしてさっき上げた記事よりも文章の長さや写真なども含めて正確に通訳されているので)、ぜひ読んでみてください。
映画自体はオンラインで購入、もしくはレンタル出来るようです。
この記事を書いている今現在はまだ私も見ていないですが、今年中に見る映画リストに入れておきます。
壁を減らすために
私自身、バレエ界にどっぷり浸かっていながら、今回初めて、男性ダンサーだけに焦点を置いてリサーチしたり、意識的に男性ダンサー達の話を聞いてみました。
その中で、今あげたような虐めなど、社会的な部分でも大きな壁があることに気づきます。
バレエを知らない人たちの反応を、私たちが「すぐに」解決出来るわけではないけれど、
バレエ界の中にいる人たちが今すぐできる、3つの方法を考えてみました。
ぜひ一緒に、性別に関係なくバレエという芸術を楽しめる雰囲気を作っていきましょう。
コミュニケーションをとる
これは男性ダンサーがぶつかる壁を元ジョージア国立バレエ団の鷲見雄馬君にインタビューしたFBライブでも話題に上がりました。
男の子がスタジオにいる場合、先生が積極的に「クラスで」会話が出来るようにしてあげましょう。
別に男の子だけを特別視して、かわいがらなくてもいいんです。
それは逆に、彼らにとってプレッシャーになっているかもしれないという事を雄馬君は言っていました。
でも、クラス全体で話すようにする。
先生→生徒、への注意だけがレッスン中の会話にならないようにする。
それって、ダンサー達がオーディションやバレエ団で会話をしなければいけないことを考えると小さいうちから練習しておきたい部分ですね。
たしかに芸術家で、言葉はいらないから体で表現する道を選んだ、という人もいるかもしれない。
でも、指導者になった時、言葉&コミュニケーションは絶対必要でしょ?
別にレッスン1時間半ずっと喋っていなくていいですが、先生方も意識して「スタジオのみんなを交えた会話」をレッスンに取り入れてくださいね。
言葉を変える
懺悔でも書いたけど、私自身がやっていたミスを再度。
バレリーナ、は女性名詞であり、バレエをやる女性となってしまう。
その言葉で参加しづらい子(人)がいるかもしれないと思ってみる。
私たちにとってはただの言葉でも「言葉の暴力」というフレーズがあるようにとても力強いもの。
「バレリーナ」と「ダンサー」。
どっちを選んでもあなたに関係ないんだったら、大勢が含まれる方を選んであげたらいいかな、と思います。
勉強してみる
今回の記事のためにリサーチしてみると、文献を読まなくても、
ネット記事を読んだり、ハッシュタグをフォローしてみるだけで勉強になることがたくさんありました。
今、コロナの関係で海外で活躍しているダンサーが一時帰国しているかもしれません。
スタジオ内にいたら、勉強させて!と話を聞いてみるのもいいかもしれませんね。
私もバレエ学校やカンパニー、舞台裏で男の子たちと仕事をしてきましたが、今回の雄馬君とのインタビューのようにテーマに絞って話を聞いたことで、たくさん勉強になりました!
エクストラリソース
男性ダンサー達をサポートするため、現在DLSに存在する男の子向けコンテンツをまとめておきます。
- スタジオには女の子しかいなくてモチベーションをキープするのが大変な子や保護者
- 男の子生徒が少なく、彼らの気持ちを分かってあげる勉強が必要と思っているバレエ教師の皆さん
だけでなく、
- バレエ学校やカンパニーで絶対に一緒に活動することになる友達を理解するため
にも積極的に皆さんに知ってもらいたいです。
YouTubeビデオ編
エクササイズ記事編
これらのエクササイズは男性「のみ」でなく、上半身強化、ポーデブラを上達させたいすべてのダンサーに送ります。
Happy Dancing!