*この記事は2017年に書かれたものを、より詳しく大幅アップデートしました。
私が踊っていた時の一番最後の怪我が疲労骨折でした。
ちゃんとリハビリするというか、治療も、原因も、リハビリの方法も知らなかったので、それが最後の引き金になってバレエを辞めました。
(それ以外にも色々と理由はありましたが、詳細は愛さんのバレエ留学記シリーズに書いているので興味があったらそちらをどうぞ)
必ずしも疲労骨折=バレエ人生終わり!ではありません。
実際にプロダンサーでも多く見られます。
そしてその怪我の間に自分をより強く、踊れるダンサーに改良することも可能です。
ですが、疲労骨折を放っておくダンサーがあまりにも多すぎる。
そして本来ならば、6-8週間のお休みの後レッスン復帰が出来るはずなのに、レッスンを休むことを恐れて?先生が許さなくて??結果、バレエ人生を短くしてしまっています。
バレエ人生が短くなる…だけだって悲しいのに、
- 骨折が一生治らない「偽関節」
- いつもかばって踊るために体のバランスが崩れる「機能性側弯症」
かばって踊る・生活するから無数の不必要なケガに繋がったり
一番力を発揮しなければいけない留学中、バレエ団1年目などで思うように力を発揮できずチャンスをつかむことが出来ないなんて事もよくあります。
これ以上読み進める時間や興味がない人たちのために、これだけは頭に入れておいてください。
疲労骨折は防げます。
疲労骨折とはなに?
「疲労骨折」って言葉は聞いたことはあると思うけれど、普通の骨折と何がちがうのか?を説明しなさい、と言われたらうーん…ってなっちゃいません?
Clinical Sports Medicineという本(ちなみにこれはバレエ団研修している時に、バレエ団で働いているスタッフ全員の机に置いてあったので真似して買った本。DLSでも参考書に使ってます!)によると
疲労骨折は「Overuse Injury」のカテゴリに含まれていて
A stress fracture is a microfracture in bone that results from repetitive physical loading below the single cycle failure threshold.
と書いてあります。
簡単に訳すると、繰り返し行われる運動の中により、小さな骨折が出来る、という事になりますが、放っておくと骨折のサイズがどんどん大きくなっていきます。
永遠に小さいまま…ではないんです。
バレエダンサーに起こりやすい疲労骨折部分は
- 背骨
- 骨盤
- 大腿骨の頭
- 脛骨
- 腓骨
- 中足骨、特に2番目と5番目
- 種子骨
だと書かれています。
疲労骨折の治療は、運動制御。
ただし、殆どの疲労骨折は、運動を辞めてから6週間ほどで良くなる。
スポーツへの復帰(私たちの場合はバレエ)は、疲労骨折が修復したのが分かってから徐々にゆっくりと骨を負荷に慣れさせる必要がある。
とも書いてあります。
疲労骨折はレッスンお休み「だけ」では治りません
疲労骨折が見つかりました
→レッスンも体育の授業も辞めました
→6週間経って、MRIとかとってOKが出たら、ゆっくりレッスンに復帰します♡
だけでは、残念ながらまた疲労骨折するでしょうね。
(まーここまでちゃんと言うことを聞いてくれるダンサーだったらすごく嬉しいんだけどさ。殆どの場合、勝手にレッスンに戻っちゃうから。特に先生の理解がないと。)
さっき、疲労骨折はオーバーユーズのカテゴリだってお話したでしょ?
オーバーロードのケガっていうのは原因が結構あるんですよ。
- レッスン量が多すぎる
- レッスンテクニックが良くない
- 食事量が足りない
- アライメントが間違っている
- 筋力の弱さやバランスの悪さ
などなど。
シューズのせいとか、スタジオの温度、床の素材や精神的なものなどもオーバーユーズ症候群の原因とされています。
(Clinical Sports Medicine P17、table 2.3参照)
これらのせいで、さっき見たように「骨に繰り返し負荷がかかり、その場所が折れる」。
つまり、この原因をどうにかしないと、また同じ場所に、同じように負荷がかかります。
床や温度などは変えられないかもしれませんよね?
だからこそ、自分で変更出来る部分は徹底して向上しなければいけません。
- テクニックが正しくなければ、いくら練習しても無駄です。
- アライメントが正しくなければ、体の構造上無理をして踊っていることになります。
- 筋力が弱かったり、バランスが悪かったら、体の一部に負担がかかって当たり前です。
ここら辺はみんな、うんうん。って聞いてくれると思うんだけど
レッスン量は多いほうが上達するんでしょ?って思っている人たちは多いですよね。
練習しなきゃ上達するわけじゃない…のかな?
- レッスン中に体は強くなりません
- レッスンの後に体は強くなります
- 使った組織(筋肉とか腱とか、骨など)を修復させるとき、体は強くなります
- 「修復」しないと強くなりません
修復するには材料が必要で、光合成が出来ない人間は食事でしか修復材料をとることができません。
つまり、食事をしないと体は強くならないんです。いくら踊っても。
ま、ここら辺はSafe Danceセミナーでダンサーたちに、Safe Dance Studioで教師の皆さんに伝えているので、もう分かってるよね?
疲労骨折はどうして甘く見られるのか?
疲労骨折、という名前から
- 疲れた時に起こるから、疲れをとったら直るはず
- 小さい骨折だって書いてあるし、普通の骨折よりも軽傷でしょ?
なんて思っている人たちが多いのかもしれません。
「私だって疲労骨折だったけど、舞台に立ったのよ」
なんて自分のテクニックのなさと、自己管理の出来なさを、あたかも自慢話のように伝えるバレエ教師もいます。
ケガしていると分かっていて、踊らせる=体罰、いじめ、暴力ですよ?
疲労骨折は踊っていないと痛くない。
これも甘く見られる理由の一つだと思います。
これね、疲労骨折だけでなく、普通の骨折も、スポーツ障害と言われるケガたち全てに当てはまることなんだけど、
ケガしている場所に負担をかけなければ、痛くないんです(すごく重症になるまでは…)。
痛くない、というのはレッスンのあとズキズキするなぁ、とか朝起きて、一番最初に動いたら痛みがあるなぁくらい。
痛みに慣れているダンサー達が無視する程度の痛みです。
あとね、とっても悲しいけれど、全ての痛みでいえる事だけど、痛いのを無視して生活していくと、痛みの感覚が自分の中で鈍感になり、「痛いのが普通」となってしまう。
だから気にもかけない。
それは
- ケガが治った(良くなってきている)
- 精神的に強くなった
のではなく、
- 体がサインを出すのを諦めた
という事ですからね。
そして骨が修復するのを諦めると「偽関節」と呼ばれる、骨が一生直らない事も多くありますし、
小さな骨のかけらが体に吸収されて、なくなってしまうこともあります。
一生治らないケガになる可能性が高いのに、甘く見られる。
これがダンサーの疲労骨折。
疲労骨折の前からケガをしている
疲労骨折は「繰り返し行われる運動の中により、小さな骨折が出来る」って話したじゃない?
でも「繰り返し負荷がかかる」→「ある日骨折が生まれる」ではないんです。
実はその前に2段階別のケガがあるの。
日本語でどうやって訳するのか分からなかったので、知っている方はぜひ教えてください。
Bone Strain(もしくはSilent stress reaction)
→
Stress Reaction
→
Stress Fracture
(Clinical Sports Medicine P19、fighre 2.13参照)
という順番で骨に負担がかかっていきますが、レントゲンとかCT、MRIなどのスキャンで見られるのがStress Reactionの後なので、発見が遅くなってしまう。
しかも、疲労骨折が小さいとき(新しい時)はレントゲンに映らない、なんて問題もあるから厄介。
日本では、
痛い→整形外科に行ってレントゲンをとる→骨に異常はないですね
で終了してしまうことが本当に多く、練習量やテクニックの問題、ましてやダイエット歴なんてチェックされることはないでしょう。
私はバレエダンサーやパフォーマー専門で仕事をしてきたので、疲労骨折と聞いたら最初に確認するのが生理の有無なんだけど、
そういうトレーニングは普通の学校では受けず、治療家も自分で勉強をしていかなければいけません。
レントゲンやスキャンなどがダメ!なわけではないけれど、
ダンサー自身がおかしいな、と思ったら、私にとってそれが一番のサインです。
たとえ、痛みが精神的なストレスから来ているとしても「健康」ではないことに変わりないんだから。
よって練習量は分かりやすいとしても、
テクニックの問題や体の使い方の癖は疲労骨折が見つかるかなり前からあったわけで、
その癖を徹底的に修正することが、ダンサーの疲労骨折リハビリになります。
ただし!
プロダンサーの場合はちょっと違うので、ここでお話しているのは学生ダンサーだと思って下さい。
プロダンサーの場合、リハーサルを2,3種類同時に行っていて、作品は違うけれど全ての配役でジャンプが多かった、などで男性ダンサーの疲労骨折になることがあります。
この場合はテクニックではなく、配役(動作)と練習量の調整になるので、また別のお話。
疲労骨折とダイエット
ふざけたレッスン量(=言葉は悪いけど、自分の骨を折るくらいだからね?)とテクニック不足(=基礎がないということ)「だけ」で疲労骨折が起きるのではないです。
ダンサーの場合
- そんなに多くないレッスン量
- ある程度出来ているテクニック
でも疲労骨折になることがあります。
それは、ダイエットをしていること。
- 食事制限をしている=体を修復するエネルギー不足=上達しない&強くならない
だけでなく(ってこれも大きな問題だけど!)
- 食事制限をしている=生理が止まる・不規則になる=骨量が増えない=疲労骨折の確率が高くなり、修復も遅れる
というスポーツ界、バレエ医学を知っている人たちにとっては超!当たり前な事実もあります。
バレエ教師も、保護者も、ダンサー自身もプロを目指すのであれば、
A) 骨量が人生で一番多くなる20歳ごろのピークに向けて、出来る限り増やしていく事で、プロダンサーになったときに
- どんなスケジュールでも、配役でも耐えられる
- ツアー先の舞台の床や温度が変わっても耐えられる
- 同じ作品を何度も公演することに耐えられる
体を作るのがゴールなはずで、
B) 練習量が増えるバレエ学校年齢(14,5歳から18,19歳あたり)は、RED-S(相対的エネルギー不足)にならないように
- 食事量を増やす
- 自分の体を声を聴いて、どこで休み、どんな行動をとると体一番動きやすいのか?を実践する
のが最良で、
C) そのようなレッスン量になる前に
- Safe Danceの知識(安全に踊るためにダンサーが知っておくべきこと:ウォームアップや体のケア、食事睡眠など)と
- 自分の弱い部分を強化する(けれど、レッスンと同じ動きを避ける事で、繰り返し1か所に負担をかけない)エクササイズ
をして体を育てていくべきなのに、
- プロダンサーを目指すなら痩せなきゃいけないわよ。
- 発表会前に体重落として!
- パドドゥするなら絞らないと
- 夏休み返上でコンクールレッスンします
という、ケガするレシピを指導者が未成年のダンサーにつきつけます。
素人の保護者は言われた通り、子供の送り迎えをし、お金をだす。
子供は先生に言われたことに素直に従い、痛いのは自分のせいだ、って自分を責める。
ふみさんによると、66%のダンサーがRED-Sだそう。
つまりスタジオに通ってくれる3人のうち2人はエネルギー不足(=骨折をはじめ、ケガのリスクが高くなる)という計算になります。
最初に「疲労骨折は防げます」って書いたでしょ?
これはね
ダンサーに防ぎなさいよ!って言っているのではないです。
指導者、保護者の大人たちが知識があったら、子供の将来を守れるんだ、という事です。
ダンサーと食事、ダイエットの危険性についてはふみさんのサイトでちゃんと勉強してきてください。
特に指導者は、彼女のオンラインコースで勉強し、信頼してくれている未成年を守ってください。
男性ダンサーでも、ダイエットしていなくても知っておいて!
女性アスリートの三主徴、生理の有無、ダイエット…
と話していると、
- 男性ダンサーは疲労骨折にならないのか?
- 男性ダンサーだったら食事量や運動量を心配しなくてもいいのか?
と思われるかもしれないけど、それは間違っています。
日本語では「女性アスリートの三主徴」って言われることが多いですが、RED-S=Relative energy deficiency in sport なので性別は関係ありません。
*ただし2018年からIOC(国際オリンピック委員会)でも女性アスリートの三主徴ではなくRED-Sという言葉を使うようになったそうです。
こちらのサイトは英語ですが、スクロールして最初に出てくる図(Matching Energy Demand with Energy Intake)を見てください。
トレーニングの量が一緒でも、食事量(エネルギーインテイク)が少なければパフォーマンスは落ちるし(図の左)
食事量が一緒でも、トレーニング量が増えれば、パフォーマンスは落ちます(図の右)
よって、練習量が増えたら、食事量も増やさないといけないわけ。
ダイエットで意図的に食事量を減らしていても、
バレエが大好きで、いっぱい練習したくて、でも部活や友達とのアクティビティがいっぱい!という感じで意図的でなく食事量が足りない場合も、
ケガのリスクやパフォーマンス力低下には変わりありません。
男の子の場合、身長で悩んでいることもあるかもしれないけれど、栄養不足は身長にも影響します。
だって、骨の修復+成長にはエネルギーが必要だから。
まとめ:疲労骨折は防げます
生徒がバレエに関係する疲労骨折になったら(=部活動からの疲労骨折ではないってことね)指導者として一度立ち止まり、自分の言動を見直してください。
- 年齢に合わせたレッスン量になってるかどうか
- コンクールの回数や練習量は何を指標にしているのか
- 発表会前だから痩せろ、などケガを誘発するような言葉を発していないか
- 思春期の体が変化することをネガティブに捉えるような言動をしていないか(生理が来たら太るから…、小さいうちじゃないと体が変わらないから…など)
- ケガしているダンサーを(たとえ本人の意志でも)舞台に上げていないか?
疲労骨折は防げます。
もちろん、体の声を聞くことが出来るのはダンサー本人だけですが、指導者、保護者が正しい知識を頭に入れて、指導、ゴールを指し示し、導くこと、が出来なければ
子供たちは「言うことをちゃんと聞いて」ケガしていきます。
ダンサー自身は(そして保護者は)リスクを理解して、レッスン量や食事量を考えてみましょう。
- 疲れが抜けない
- 体が痛い
- 大好きなバレエレッスンなのに体が重い
という体のサインがあったら、それはあなたが怠けているのではなく体がサインを出しています。
ダンサー側が正しい知識を持っておく=ケガや、間違った指導から自分を守ることが出来る
というのも覚えておいてください。
ダンサー専門の管理栄養士、ふみさんが現在3つのオンラインコースを提供してくれています。
- ダンサーが知っておきたい成長期のカラダと変化
- バレエ教師が知っておきたいダンサーの食事と栄養{入門編}
- バレエ教師なら知らなきゃいけない摂食障害{基礎・予防・スクリーニング}
レッスン内容詳細や彼女についてはこちらからチェックしてください。
補足:現在疲労骨折の人はどうしたらいいの?
残念ながら「レッスンを休むだけではまたケガするよ」と「ダイエットするんじゃないよ」くらいしか、みんなに当てはまる事はお話出来ません。
- 現在の練習量
- 疲労骨折の場所と症状の大きさ
- ダンサーの年齢
- 生理の有無
- ほかのケガの有無(疲労骨折に至る経緯と、その後誘発されたケガについて)
が分からなければ、何をして、とか、このエクササイズがいいよ、とかお話出来ないんです。
疲労骨折の予防や、どのように対処したらいいか知りたい人は
DLS教師のためのライブラリにある「疲労骨折:慢性・オーバーユーズのケガ対応方法」で
もっと深く学びましょう。
練習すればするほど、上手になると思っている人や、
ただ休めばケガは良くなると思っている先生は絶対に受講してください。
Happy Dancing!