ダンサーのリハビリではこういうのが必要なんだよ、ってお話したとしても、
「私にはムリ」
「こんなに長く痛み痛みが続いているもん、変わるわけがない」
「そんなに冷静に言われても、リハビリに失敗してきているからDLSを見つけたんだっていうの!」
なんて声も聞こえてくるかもしれません。
ここでは、ケガしたときのダンサーの頭の中を覗いてみようと思います。
そうすれば自分で思っているほど、あなたが感じている感情は特殊じゃないって分かるし、
そういう感情を抱えても普通なんだと分かると気が楽になるかもしれません。
ペンシルベニア州立大学の大学教員、岩月猛泰(たけひろ)先生のブログによると、ケガしたスポーツ選手は
- アイデンティティーを失う
- 恐怖と不安
- 自信を失う
- グループ間の乱れ
- パフォーマンスの低下
という心理的な反応を起こすそうです。
岩月先生のブログは博士号保持者が、日本語で分かりやすくスポーツ心理学を書いてくださっているのでこのエリアをもっと知りたい人はチェックしてみてくださいね。
4つ目の点であるグループ間の乱れは、バレエスタジオ内、カンパニー内で起こることなので省いて、それ以外の点をダンサー視点で見ていきましょう。
ただし、ここに書いていることやアドバイスは、私が自分のケガの経験、そしてケガに悩んでいた生徒たちを見て学んだことをシェアしています。
カウンセラーや心理士の視点ではないので「これが正解です」ではなく、こういう考えもあるんだ、というケーススタディとして読んでください。
踊れない自分と出会う
バレエをやってきたことが自分のアイデンティティーな人は、ケガして踊れないと自分自身を失ってしまったような気持ちになります。
私も「バレエをやっている愛ちゃん」「バレリーナの愛ちゃん」というアイデンティティーをずっと持っていました。
体育の授業でも体も柔らかいことで飛び抜けているし、短期留学したりするし、スタジオの後輩たちからも憧れの目で見られている。
そこからケガをして踊れなくなるということは「バレエをやっていない愛ちゃん」
つまり「ただの愛ちゃん」になることなんですよね。
今まで私はバレエが身分証明書みたいになっていたのに、それがなくなったらあなた…誰?となってしまう。
本来ならば「佐藤愛がバレエを習っている」となるはずで、私のやっていること、行動の中の一つがバレエになるはずなのに、
それが逆転してしまった場合「私からバレエをとったら何が残るの!?」と
ロミオとジュリエットの墓場のシーンのようにムダにドラマチックに体を動かして泣きたくなってしまうわけです。
覚えておきたいことは、私からバレエをとっても、私はいなくなりません。
今現在、踊っていませんし、プロダンサーでもないですが、私は地球上からいなくなりませんでした。
バレエが嫌いになってしまったのでもないし、あえて避けてるわけでもないですよ。
こうやってダンサーのためにDLSをやっているわけですから。
ただ、私自身がバレエに振り回されるのではなく、バレエの結果やスタジオでの出来に振り回されるのでもなく、自分の手に舵が戻ってきたという感じ。
ケガで踊れない時期、自分を探す旅に出てみてはいかがでしょうか?
バレエ以外で好きなこと、興味があること、得意なことを探すのはもちろん、自分視点でバレエを見るのではなく、客観的、俯瞰的にバレエを観察してみるとかね。
いつ戻れるのか不安で怖い
ケガでレッスンを休んでいるとき、楽しそうにアレグロをしている友達を見ているとき、
私はいつレッスンに戻れるんだろうと不安になったり、先が見えないリハビリが怖くなったりしますよね。
私も留学時代、(当たり前ですが)昼間にしか予約ができないのでレッスンの合間にMRIを撮りに行ったり、フィジオのアポイントメントに行ったりしました。
学校に戻ってくると、自由に踊っているクラスメイトの姿。何度となく窓からスタジオを眺めながら泣きました。
不安に思うのは当たり前です。
今までがむしゃらに踊ってきて、留学という夢を掲げてきたのに、ぱっくりと空いてしまった時間には、
ぐるぐるとネガティブなことを考えたり、答えが出ない質問を自分にしたりしてしまいます。
時間を忘れてできることを探してみてください。
自分を敢えて忙しくさせることで、不安に感じる時間をなくしてあげるんです。
オンラインで勉強をしてもいいし、クリエイティブな趣味、例えば写真とかドレスメイキング、メイクなどを探してみることでもOK。
元ジョージア国立バレエ団ソリストの武藤万知さんにケガのインタビューをしたとき、リハビリプログラムがたくさんあって、朝から晩までやっていた、と言っていました。
リハビリはケガした部分だけでなく、体全体やマインドも含める必要があるので、プログラムを作ると結構忙しくなるかもしれません。
生徒の一人、三角骨の手術をした子は、ケガの後、自分のエクササイズとセルフケアをするだけで5時間かかると言っていました。
それはちょっとやりすぎじゃない?とは思ったけれど、彼女なりに、時間をかけて不安の原因である体と向き合うというルーティンとリラックスの時間なのだそうです。
ダンサーでありつづける自信を失う
ある程度の年齢になったダンサー、結果が出なくて悩んでいるダンサーは「このケガは神様が踊りの道に行くな、と言っている証拠だ」なんて言われることも(もしくは自分で思い込んでいるケースも)あります。
神様だろうが、仏様だろうが、何を信じても個人の勝手ですが、あなたの人生なので神様に決めさせないでくださいませ。
確かに、このリハビリをしても将来ダンサーになれないかもしれないんだから、いっそのこと諦めちゃった方が楽なんじゃないかと思いますよね。
私はそれでバレエをやめた一人なので、その思考回路が良く分かります。
バレエをやめて、バレエダンサーをサポートする仕事について、自分のときよりも多くの生徒のケガと向き合ってきた経験「だけ」からお話しすると、
最後までリハビリをして、完璧にチャレンジしてからバレエを辞めても良かったかなと思います。
結果は同じかもしれませんよ。
だけど解剖学を勉強し理学マッサージ師の資格をとった学校はまだ健在だし、6か月遅くても、1年遅くても、3年遅くても、DLSを始めるのに不利だったとも思いません。
2012~3年にDLSを始めたときはインスタもないし、FBライブもなかったので、もしかしたら後から始めた方が良かったのかもしれませんしね。
そうは言ってもバレエをやめることが悪いことだとも、逃げだとも思いません。
ただダンサーであり続ける自信がなくなったら、1年休んでも、2年休んでも世界はあんまり変わらないということは経験談としてお話ししておきますね。
パフォーマンスの低下
これはケガのために100%の力を発揮できなくてパフォーマンスが低下した、ということではないそうです。
ケガしたときの心理的状態が、ケガ本体と関係なくパフォーマンスを低下させてしまうということ。
そりゃそうですよね、
- バレエをやっていない自分が誰なのか分からなくなってしまった
- 常に不安と恐怖を感じている
- ダンサーとしての自信を失う
となって一番いいパフォーマンスができる人はいないでしょう。
でもこの3つであれば、ケガしている組織の修復(例えば骨がくっつくまでの物理的な時間)と関係なく、今からどうにかできる部分ではないでしょうか?
簡単だとは言いません。
でも、
- こういう気持ちになって当たり前なんだということ
- こういう気持ちをどうにかすることを建設的に考えること
はできますよね。
ここに書いてある事、皆が感じている気持ち。
私自身もバレエ留学中感じてきた気持ちだと思っています。
だから私もそうだったよ、と先輩目線でお話ししつつ、こういう風にしたらよかったのかなぁというアイデアをシェアできていたら嬉しいです。
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Happy Dancing!