ダンサーの腹筋事情を改善すべく、何層にもなっている問題について少しずつ紐解いて勉強しています。
腹筋は脚にはついていないけど、腸腰筋っていうグループは脚を上げるサポートをしてくれることは分かった。
でも、腹筋と腸腰筋ってどう関係するの?
そして何よりも腹筋最強説や
「おなか使いなさーい!!」
「腹筋がないから脚が上がらないのよっ!」
という注意って嘘だったの?ということを調べていきましょう。
この記事はパート4です。まだ読んでいない人はパート1から順番に読んでくださいね。
腹筋はいらないのか?
前回勉強したように、腸腰筋は脚を前と横に上げてくれます。
そして、この筋肉は腰椎の前にあります。
ということは、
「おなか(の深部)を使って脚を(前と横に)上げなさい」という注意
は、解剖学的に成り立ちますよね?
では、「腹筋を使って脚を上げなさい!」という言葉は正しくないのかしら?
これはYESでもありNOでもある、グレーゾーンに入ってきます。
その前に。
ここでいう脚を高く上げる、というのは
「クラシックバレエにおける」脚を高く上げる、ということだと思ってくださいね。
だってダンサーのに求められるものは、脚の高さだけではなく、
- 軸足はターンアウトされている
- 背骨は引き上がっている(アライメント)
- 肋骨や骨盤は正しいところにある(プレースメント)
- 上半身に力みがない(芸術としての美しさ)
もちろん上がっている脚はターンアウトされ、つま先も伸びています。
脚は高い方がいい!って思っている人がいますが、それはバレエ界では脚が上がったことにはなりません。
腰椎が落ちたり、軸足が曲がったり、ターンアウトができていなくって「脚上がったよー」なんて言っていたら、怒りますよ?
「この子、脚は上がるんですけとね。アライメントを直そうとすると、脚が落ちちゃうんです。」
という相談もありますが、
脚は上がる=テクニックなく(柔軟性だけに頼って)脚が上がっている、ということだったら「バレエ的に」彼女の脚は上がっていることになりません。
柔軟性=テクニックではありません。
そこはダンサーも教師もしっかりと理解してください。
その理解が乏しいから、腹筋問題の一部であった「踊りのプライオリティが間違っている」という問題が生まれてしまうのですから。
脚を上げたときの腹筋の役目
腸腰筋は、胸椎の一番最後(T12)と、腰椎5つの全てにくつついていて、骨盤の中を通り大腿骨についています。
この点と点を縮めると股関節屈曲という動きが生まれる、というところまでは頭に入っているよね?
デヴァンに上げた際、腰椎が後ろに落ちてしまったとしたら、点と点の距離が縮まらなくなってしまうよね?
筋肉が収縮できないと、腸腰筋がうまく使えないから、ほかのところが頑張ってしまいます。
「ほかのところ」の代表は大腿四頭筋。
この子もヒップフレクサー、つまり大腿骨を骨盤の方に持ち上げてくれる子の一人です。
「デヴァンに上げると太ももの前しか感じないんだよね」というダンサーが多い理由もここにあります。
両方とも股関節の前を通って太ももについているのが見えます。よってヒップフレクサー、股関節屈曲に使われる筋肉です。
床から90度あたりまで脚を上げる際には腸腰筋よりも 大腿四頭筋の方を使います。
図左:腸腰筋
図右:大腿四頭筋
大腿四頭筋は、プリエやジャンプなどでも使われますし、膝を伸ばしてくれる筋肉でもあるので、嫌いにならないでね。
人間の体は、膝を伸ばしたままで、自分で脚を高く持ち上げようとすると、骨盤は少しタック(骨盤後傾)されます。結果、腰椎も少し丸まります。
ここで「腰を落として」と表現しているのは、
- 必要以上に腰を丸めてしまっている
- 脚を上げる前に、もしくは下ろしてきても腰が丸まったままである
- 上げている脚に気を取られて、腰椎が丸まり、重力に負けて落ちてしまっている(=背骨 の引き上げができていない)
ことを指します。
ではどうやったら、この「腰椎を落として脚を上げる」という悪い癖を直すことができるのでしょうか?
答えは、腰椎を支えている筋肉たちが助けにくること。
つまり、コアマッスルと腹筋たちが腰をサポートしてくれること!
正確には、腹直筋はあまり役に立たないのですが、一応お友達に入れてあげましょう。
だから腹筋が6つに割れていても良いダンサーになれるわけではないんですが、今は飛ばしていきますね。
ダンサーがクラシックバレエのテクニックに則って、正しく脚を上げたいと思った場合、
- 深層部の腹筋
- コアマッスルたち
が
- 腰椎
- 骨盤
を安定させてくれて初めて、
(腰椎と骨盤をつなげる)腸腰筋が100%の力を発揮することができる。
だからバレエの「基礎」ができていて、骨盤や背骨が安定したダンサーは脚を高く、そして 安全に上げることができるのです。
逆に、脚を高く上げることだけにフォーカスして、骨盤だったり体幹だったりという「基礎」を怠っているダンサーは、
脚も上がらないし、大腿四頭筋に大きな負担をかけてしまうようになるってことね。
柔軟性を高めたかったら、「基礎」を やれってことよ。
「腹筋を使って脚を上げる」という注意が理解できたところで、ダンサーが忘れてはいけないことを2つだけお話して、今日の記事を終わりにしましょう。
筋肉はみんなで働いてくれる
背中にある脊柱起立筋だって、足の裏で体重を支えてくれる固有筋(内在筋)だって、強く立つための軸足のハムストリングスだって大事。
なので腹筋「だけ」強くなったらOKではありません。
さっき勉強した腸腰筋のように、ほかの筋肉がサポートしてくれて初めて、本領発揮できる子もいます。
もちろん、このシリーズでは腹筋にフォーカスしていきますよ。
だけど「筋肉は全部役目がある」ということを頭の片隅に常に入れておいてくださいね。
踊りで使えるトレーニングをする
ダンサーにはダンサーの体の使い方があり、求められるもの、必要なものがあります。
それに沿った体の使い方を理解しないと、そしてエクササイズでないと効果が出ません。
スピードが必要だといっても、100m走とスピードスケートの選手が同じトレーニングをしないように、種目や踊りのジャンルに合わせたエクササイズが必要だよね。
腹筋の仕事は肋骨の点と骨盤の点を縮めるから体を丸めることが含まれる、とパート2で勉強しましたよね。
だけど、いくら脚を上げるために腹筋が必要だっていっても、ダンサーだったらデベロッペするたびに背中を丸めてはいけません。
ダンサーだったらどうやってトレーニングすべきか?
ここの理解ができていないと、腹筋大事、腹筋大事…とお経のように唱え、毎晩腹筋100回しているのに、
いざ踊りになると胴体ぐにゃぐにゃの腰が痛いダンサーが増えてしまうわけ。
ようやくダンサーの腹筋事情が見えてきましたか?
踊るためのエクササイズ、という考えはとても大事なので、次回からの腹筋シリーズでもう少し深く考えていきましょう。
追伸。
もっと知りたいけど、頭がこんがらがってる…って言う人は、教師のためのバレエ解剖学講座でこの内容をしっかりとお話しします。
教師のために、っていうクラスだけれど、
- プロレベルで踊りながら教えている人
- フリーランスダンサー(自分の体、踊りで食べている人)
- 高校生以上のダンサー(特にけがして思うように踊れない子+留学先で解剖学授業がある子)
は一度受けてみたら楽しいと思います。
人気クラスのため、申し込み後すぐ定員になってしまうセミナーでもありますので、それまではYouTubeチャンネルにあるバレエ解剖学クラスシリーズや、オンライン学校で勉強してくださいね。
Happy Dancing!