*このブログは2014年に書かれたものを2020年に大幅加筆修正しました。
筋肉を使う、これはダンサーにとって当たり前ですよね?
筋肉を使わないで踊れないでしょう?
(とスタートしたは良いけれど、未だに筋肉を使わずに踊れると信じて、筋肉を緩めることに命をかけている時代遅れダンサーがいるのも事実だしなぁ…)
でも、バレエ界の摩訶不思議な「事実」として伝えられている
- 筋肉を遠くに伸ばして!
- 踊っているとき、筋肉を固めないで!!
いや、間違っていないんですけどね?
でもこれらの言葉をしっかりと理解できないと、
正しく指導はできませんし、危険すぎます。
バランスのゴールは「止まる」事ではない
よくよく考えてみると、バレエの振付、
アンシェヌマンの中で「止まる」事はないんですよね。
たとえ「バランス」をとっていても。
例えばピルエットの後、バランスをとって止まる、という美しい見せ方がありますね?
これも、ルティレでがちっ!って止まってしまうのではなく、
止まっているのに伸び続けるエネルギー、みたいな。
スピードが落ちているけれど、止まっていないっていうの?
視覚的?感覚的??には動きの余韻が残っているような、そういうバランス。
でもバランスとは、停止という意味じゃないでしょ?
調和、つり合い、均等が取れた様子ってことじゃない?
そういう意味で「筋肉を固めないで」と言われているのならば意味が分かりますよね。
余談
ドンキの3幕のパドドゥや、ローズアダージオでアチチュードバランスをとる部分があるじゃない?
私個人の趣味だけでいうと、あそこで怖い顔して、デリエールの脚は落ちてきて、だけどバランスをとる事に命をかけているダンサーは嫌いなんだよね…
なんのためにそこで演技や表現をやめて、(そんなによくない)テクニックに走るんだろ…。
筋肉を固めないでと、筋肉を柔らかく保つは一緒じゃない
ただ、「筋肉を固めないように!」としか言われてこなかったダンサーには問題が生まれます。
先生の言う言葉をしっかりと聞く真面目ダンサーであればあるほど、
- 筋肉を固めない=
- 筋肉をやわらかくしなければいけない=
- 筋肉はふにゃふにゃでなくっちゃダメなんだ!
という数式があるようです。
固いの反対語は柔らかいだもんね、みたいな感じで。
例えば、「大腿四頭筋を使うな!」という注意を聞いた途端、
大腿四頭筋はふにゃふにゃじゃなきゃいけないんだっっ!!
と思い込んで悩んでいる生徒もたくさんいます。
だって、ただ立つだけで筋肉が固くなってしまっているじゃない?
でも
- 膝を伸ばしたて立ったら
- 脚をデヴァンに上げたら
- ジャンプの着地でプリエでホールドしてたら
大腿四頭筋が固くなってる!!
先生に言われたことが出来ないなんて私はダメな生徒なんだっ!
と毎回手で筋肉を触って、力が抜けているか?を確認していたというダンサーの話も聞きます。
大腿四頭筋を使わなかったら膝が伸びませんよ…
そして膝関節を支えている筋肉群のひとつですから、使わないようにしようとすると、膝のケガに繋がります。
でもね、何度も書いているように、それらの注意が悪いのではないです。
正しいんだけど、しっかりと伝えられていないだけかもしれないし、
ダメな事(筋肉固めないで!大腿四頭筋ギュッとしないで!etc)は伝えても、 代わりに何をして欲しいのか?は伝えていない。
もしくは先生自身もよく分からないけれど、自分自身の先生から言われてきたことをオウム返ししている、という事も考えられます。
本人は分かっていても伝わらないから、家族や友達と兼かするじゃない?
自分でさえ意味の解らない言葉は、100%相手に伝わりません。
筋肉の収縮には3種類ある
筋肉を固めないで使う、っていうのはバレエの世界では「止まらない」から当たり前だよね。
じゃ、レッスン中にバランスをとっている時も伸び続けてーと考えれば(もしくは祈れば?)一件落着…とはいきませんよね。
筋肉を固めないで使う、という言葉を運動学的に考えたり、解剖学を使って読み解こうとする場合、筋肉の収縮には3種類あるんだ、という理解が必要になります。
- 短縮性収縮(たんしゅくせいしゅうしゅく・concentric contraction)
- 伸張性収縮(しんちょうせいしゅうしゅく・eccentric contraction)
- 等尺性収縮(とうしゃくせいしゅうしゅく・Isometric contraction)
文字を見ただけで、勉強を辞めたくなりますよね。
私も英語ならまだしも、漢字で書けって言われたら多分書けません。
ただ、筋肉の勉強を始める前にでお話したように、バレエにはバレエ用語があるように、解剖学には解剖学用語があります。
最初は難しく聞こえるかもしれないけれど、慣れれば大丈夫だから心配しないでくださいね。
ま、筋肉の収縮について感想文を1200文字で書いたら、良いダンサーに慣れるわけでも、今後一切筋肉を固めないで踊れるようになるエンライトメントなモーメントが来るわけでもないですが、
私がバレエ学校の生徒に説明していた時は、筋肉のサイズ?ボリューム??っていうの?をイメージしながら、
- 短縮性収縮はプラス
- 伸張性収縮 はマイナス
- 等尺性収縮はイコール
と伝えていました。
私のように漢字が怖い人はプラス、マイナス、イコールで考えてみようか。
教師のための解剖学講座を受講される方々には、参考書として「Anatomy of Movement」という本を購入してください、とお願いしてあります。
この記事で書きましたが、私の長年のお気に入りの本のひとつ。
教師講座の参考書としては「後で読もう症候群」や「セミナーで話したことと、本の文章で内容が違くて混乱・混同シンドローム」を減らすために英語版をオススメしています。
ここから先に出てくるイラストは、元がAnatomy of Movementです。
短縮性収縮とは
まず最初は短縮性収縮から勉強していきましょう。
文字からもわかるように、筋肉繊維が短くなって動きを作ります。
上腕二頭筋だったら、むき!ってポパイの腕になるように、筋肉のボリュームが大きく見えるのでこれがプラス。
バレエの動きと解剖学を当てはめてみてみると、
- デベロッペデヴァンに高く脚を挙げている時の腸腰筋
- ルティレに脚を挙げてくるときのハムストリングス
- アレグロでつま先が床から離れるときの内在筋
などは縮むことで動きを作っているので、短縮性収縮となるのね。
もっと単純な例だと、体育の授業とかでやる腹筋運動をしている時のおなか。
この腹筋は私はダンサーに向かないと思うっていうのは、こちらの記事で伝えていますが、
みんなが知っている動きだから例に出しました。
伸張性収縮とは
伸びてるのに、収縮してるの?って頭が混乱するのがこれ、伸張性収縮。
筋肉は働いているけれど、ブレーキの役割をしているというイメージが正しいかもしれません。
さっきと同じ例を見てみると
- デベロッペデヴァンに高く脚を挙げている時の腸腰筋は縮む。
- 一番高いところから脚を5番に下ろしてくるときの腸腰筋は伸びるが、働いている。
という感じ。
膝を曲げる動きの時(ルティレ)=膝を曲げる筋肉が働く(ハムストリングス)
膝を伸ばす動き(ルティレから5番へ)=膝を伸ばす筋肉が働く(大腿四頭筋)
なんだけど、5番に「戻す」っていう感じで、膝を伸ばそう!とはしないよね。
重力に引っ張られて戻ってくる感じじゃない?
その時に、筋肉の力が抜けていたら、がたんって脚が床に落ちます。
そのブレーキとなってくれるように、ハムストリングスが徐々に伸びながら働いてくれる。
5番に戻してくる腸腰筋もそうだし、つま先が空中から床に戻ってくるときに足の裏の内在筋も伸びながら働いてくれる。
だから踵がガツンと床に落ちないし、足の裏で床を使って、というバレエで言われる使い方が出来るようになるのね。
イラストではBさんの方が力が強くて、Aさんの上腕二頭筋が頑張ってるけど負けちゃってる。
さっきの短縮性収縮とは逆に、筋肉のボリュームが引っ張られて長く、細く見えるからマイナス。
ま、バレエの場合は相手と格闘することがないので、だいたいは重力に反して、って感じの方が分かりやすい気もします。
等尺性収縮とは
最後に残っているのが等尺性収縮、アイソメトリックトレーニングなんて言われることもあるかもしれません。
これが、バランスをとっている時のイメージ。
AさんとBさんの力が「均等がとれている」場合、動きは生まれないけど二人とも筋肉は使ってます。
ようやく今日の最初の部分で話していた事と、説明が繋がってきた?
5番ポジションルルベでバランスをとっている時、筋肉が縮んだり、伸びたりして関節の動きがあるわけではないですよね?
でも脱力している訳ではないでしょ?
- プランクでホールドしている時
- ルルベでバランスをとっている時
- プレパレーションで立っている時
- パドドゥのプロムナードでS字に腕を組んでいる時
動きは目で見えないかもしれないし、関節に動きがあるわけでもない。
ただ、筋肉は働いています。同じ長さで。
だからこれがイコール、になります。
筋肉の収縮という知識をレッスンで使うには
実はね、この3種類の収縮は常に、全ての動きで行われているんです。
デベロッペデヴァンを何度も例に使っているので、ここでも。
- 脚を上げる筋肉は短縮性収縮していて、
- その反対側でブレーキをかけ、膝がスムーズに伸びるようにコントロールしている筋肉は伸張性収縮していて
- 強く体を支えてくれている軸足は等尺性収縮をしている。
どう?
Aha!となった人もいれば、はぃ?となった人もいることでしょう。
超!単純に説明すると
理論的には筋肉の収縮は3種類あるといっても、バレエの動きは全身を使うので、全身の筋肉が様々な収縮方法で体をサポートし、動きを生み出しているんだ、ってこと。
この知識を具体的にレッスンに取り入れる方法を3つほどお話しておきますね。
(収縮も3つだったし、3がキーワードっぽいので、という単純な理由だけど)
筋肉が収縮したら固くなる
どんな形で筋肉が収縮しようが、使っている筋肉は触ると固く感じます。
ゆるゆる、フワフワの柔らかい筋肉は収縮していませんので、使えません(脱力している証拠)。
確かに、収縮の種類によって筋肉のボリュームが大きく見えたり、細くなっているように見えるかもしれないけれど、
イラストで見た大腿二頭筋に力こぶが出来たからといって、筋肉がいきなり太くなる訳ではありません。
ケガ予防の為にも、テクニック上達のためにも、
- 長く筋肉を使う=筋肉自体が柔らかくなくてはいけない、ではない
- 動きを固めない=筋肉を触って固さを確認しろ、という意味ではない
という事は頭に叩き込んでください。
- 筋肉を使わなければ、関節を動かすことは出来ません。
- 関節を動かすことが出来なければ、ダンサーは踊れません。
当たり前じゃん、って思われそうだけど、ダンサーの中には筋肉を使わずに踊れると思っている不思議ちゃんがいるので書いておきます。
筋肉は皆が一緒に働いているという理解をもってエクササイズする
先ほどお話したように、バレエステップは全身を使って行うもの。
1つの筋肉を敵対心する必要はありません(ハロー、嫌われ者NO1の大腿四頭筋、嫌われ者NO2の大臀筋)。
ただ、皆が一緒に働くという事は、グループ内に弱い子がいると他の子にかかる負担が大きくなるのは事実です。
腹筋VS背筋で、腹筋が弱かったら背筋、特に腹筋の裏側となる腰のエリアの筋肉たちが頑張らないといけないってわかりますよね?
大腿四頭筋、ハムストリングス、内転筋、の3グループのうち、いつもストレッチされ筋トレしてもらえないハムストリングスと内転筋が弱かったら、
お仕事の殆どを大腿四頭筋がしないといけないじゃないですか。
(このエリアの詳細はオンライン学校で1授業としてまとめてあります)
- 大腿四頭筋を固めて踊る癖があるから、大腿四頭筋をスイッチオフしよう
ではなくって、
- 大腿四頭筋に頼って踊る癖があるから、弱い子たちを強化しよう
と
考えてエクササイズをするようにしてくださいね。
固めないで、力まないでと言われたときは動きの反対側にある筋肉をイメージしてみる
レッスン中に筋肉を固めないで、力まないで、と言われたときは
- 動きが止まっていないか?
- 呼吸が止まっていないか?
の2つをまずは確認してください。
それら2つがOKだった場合、今日勉強した筋肉の収縮アイデアを使って、
固めないで、と言われた反対側にある筋肉を頭の中で、ながーく伸ばしながら働かせているというイメージをしてみましょう。
イメージでどうにかなるの?と思う人もいるかもしれないけど、
ここを動かそう、という意思はまず最初に脳みそから出てきます。
なので脳みそで考える「だけ」でも立派な行動改革だって覚えておいてくださいね。
まとめ:筋肉を固めないで使うってどういうこと?
- 筋肉には3種類の収縮がある(が、すべての収縮で筋肉は固くなる)
- レッスンの”止まっている”姿勢、バランスを考え直す
- バランスよく筋肉を鍛える
- 反対側の筋肉を伸ばすイメージも効果的
- OOしないで、という注意が何を指しているのか?をしっかりと考える
Happy Dancing!