バレエ解剖学は何歳から取り入れるべきでしょうか?
短い答えは「何歳からでも」です。
幼稚園生から大人まで、バレエを始めるあらゆる年齢層になぜ解剖学が重要なのかを解説しました。
幼少期から体の土台を築き、大人になっても理解を深めることで、バレエの技術向上やケガ予防につながる理由を探ります。
バレエを愛するすべての方に必聴です!
Transcript
みなさんこんにちは、DLSポッドキャストへようこそ、佐藤愛です。お元気ですか?
ダンサーズライフサポート、通称DLSは”生徒の安全と将来の健康を第一に考えるレッスンを「当たり前」に。”を合言葉に、
元オーストラリアの政府認定バレエ学校専属セラピスト兼、セミプロフェッショナルレベルのダンサー向けエクササイズ、解剖学とケガ予防のクラスの講師を担当してきた佐藤愛が、
大好きなバレエを心ゆくまで続けたいダンサー、バレエの先生へ情報をお届けしています。
今日のポッドキャストでは、何歳からでも解剖学をレッスンに取り入れることが出来るよ!という話をしていきたいと思います。
もちろん、DLSでは「教師の為のバレエ解剖学講座」というように先生が指導で使うための解剖学講座をお届けしていますし、
この講座は先生だけでなくダンサーも受講できるよとは言っても、高校生以上とお願いしています。
まー中学3年生で来年バレエ科のついたハイスクールに留学する予定ですという子がいたら、どうぞ参加してくださいね。
日本語でも難しい解剖学だから、英語や外国語になると数段壁が出来てしまいます。
だから留学を考えている子達は日本語でやっておいた方がいい。
私の指導していたバレエ学校の様に解剖学授業があるバレエ学校も多いですし、
先生によっては、解剖学用語を混ぜ合わせて指導する人も少なくありません。
特にバレエ学校レベルになってくると、先生は動いてデモンストレーションしてくれないから、
言葉だけを聞いて、動きや注意を想像出来るようにならないといけないわけですよね。
もちろん現地でケガしたときに、病院に通訳さんがついて来てくれたとしても、
解剖学用語への理解がないと、完全に理解は出来ないでしょう。
通訳さんの仕事は通訳であり、医学英語や解剖学用語をバレエダンサーが分かるように説明する事ではありませんから。
なので、留学体験者、そしてバレエ学校指導者だった経験から、
プロを目指す子達ほど、解剖学を日本語で勉強しておけ、と私はアドバイスします。
では、先生とプロを目指す子達が解剖学が必要な理由は分かった。
それ以外の年齢の人は?
今日のポッドキャストでは、この部分をお話していきたいと思います。
短い答えは、「何歳からでも解剖学をレッスンに取り入れるべき!」なんですが、
それだけではよく分からないと思うので、
ちっちゃい子、幼稚園から小学生低学年のグループと、
大人でバレエを始めた人、再会した人達、という2つのグループで詳しく説明していきますね。
幼稚園生から小学生低学年グループのレッスンで、解剖学をレッスンに取り入れるべき理由
最大の理由は、この年齢はまだバレエらしいレッスンが出来ないからです。
出来ないというか、すべきでないという方が正しい言葉ですね。
この子達は完全に開いた1番ポジションすらしません。
ポーデブラで5番ポジション、ひとによってはアンオーと呼ぶ姿勢もしないでしょう。
ロシアバレエへのあこがれが強い人が多いし、
「でもこの子達がレッスンをしているDVDを見ますよ」という人も多いと思うけど、
ワガノワなどロシアの国立バレエ学校は、9-10歳からスタートします。
しかもオーディションに受かった子達だけが。
9-10歳というと、日本では小学校中学年になるはず。
よって、先ほどお話したように、幼稚園生から小学生低学年はバレエテクニックはすべきではないということです。
もちろん、スポーツの世界でも早くからスポーツに特化した動きを練習すると、
多くのケガに繋がったり、燃え尽き症候群でスポーツを辞めてしまう人達が多いというデータもあるわけですから、
長く踊れる子達、プロを目指そうと思っている子達を育てているならなおさら、
このグループの子達にバレエに特化した動きをさせるべきではないでしょう。
でも、レッスンで出来ることはたくさんあります。
- 音楽性、音楽と共に動く運動神経
- 体を動かすことへの興味
- 体で表現する事への興味
- ジャンプやコーディネーション
- 周りの子達との距離感や、列に並んだり、スタジオの方向を理解するなど
出来ることはたくさんあります。
この時期にこのようなバレエの基礎にもなる部分であり、
バレエ“だけ”に必要だというわけではない動きを練習することで、
年齢が上がり、よりバレエらしい動きをするときになったら
- カウント通りにタンジュしたり
- スキップした時につま先を伸ばせたり
- 両足でのジャンプ力が身についていたり
- 腕の動きの方向へ、目線をつけることができたり
するわけです。
そして、その中の一つに自分の体を理解してコントロールするというのもあります。
当たり前だけど、自分の体がどう動いているのかが感じられなかったら、
振付通り踊るのは難しいですからね。
この子達の年齢に、解剖学用語なんて難しすぎる!
と思う方もいるでしょう。
でもさ、バレエの言葉ってフランス語だよ?
もしくは英語でカウントしていたりするんですよね?
100%意味は分からなくても、耳が慣れておく必要があるから
タンジュ、プリエ、レベランス、なんて言葉を使うんだったら、
背骨、骨盤、肋骨、くらいは同じように理解出来たらいいのではないでしょうか?
もちろん、いきなり、トンベ、パドブレ、パドシャ、を説明しないように、
股関節から大腿骨を外旋させて…なんて説明はしないでしょう。
あくまでも、単語と体の部位を一致させるような言葉の使い方をすべきです。
すごく良いスタジオの売りにもなると思いますよ。
バレエレッスンで体も動かすけど、2-3か国語もカバーするし、
しかも医学系に進む練習も出来ちゃう、みたいな。
まーあくまでもバレエがしたくて来ている子達なのでね、
椅子に座ってフランス語のスペルや、解剖学用語を漢字で書けるようになる事がゴールではないですけど。
でも一緒にできちゃったらいいじゃない?
音楽を聴いた途端、「あ、これはチャイコフスキーの金平糖の精の踊りだ」って分かるのと同じように、
鎖骨ってここだ、と分かるって素敵じゃない?
もちろん、理科室が怖くなくなるというボーナスもあるかもしれません。
みんな理科室の骨の模型とかが怖いようだから。
ということで、幼稚園生から小学生低学年のグループでは
レッスンでやるべきことは、この先に使える体の土台を作っておくこと。
そうしたら、体への理解の言葉を一緒に学ぶのはとても便利だという事が分かりますね。
大人バレエレッスンに解剖学を取り入れるべき理由
では、大人はどうだろうか?
大人だったら、体についての理解もあるだろうし、体とのコネクションも育っているはず…?
残念ながら、大人になると知識として体への理解があっても、
思ったように体を動かすことが出来るとは限りません。
理由は生活習慣。
体育の授業や数々の習い事のように、様々な形で体を使う事が減ってしまう大人は、
いつも同じ関節や筋肉を、同じように使って過ごしていることが殆ど。
- エレベーターではなく階段を使ってます
- 一駅分歩きます
という人でも、運動動作としては同じような動きしかしていないんですね。
だから、バレエの様に股関節を屈曲伸展するだけでなく、
外旋しながら外転したり、分回し、ロンデジャンプみたいな動きのことね、を行ったりすることに慣れていませんよね。
もちろん、片足で長くバランスをとるとか、片足で何度もジャンプするとか、
知っている動きだとしても、普段の生活で行わない動きが出てきます。
それと、解剖学がどう関係するのか?
解剖学用語が分かると、先生からの注意を受け取る際に少し距離を作ることが出来るのです。
- あなたはターンアウトが出来てない
ではなくて
- 大腿骨の外旋が保てていない
となると、注意を客観的に聞くことが出来ます。
そして、これは自己肯定感のためにも、正しい努力の為にも大切。
- あなたはターンアウトが出来ていない
だと、これ以上成長の余地がありませんが、
- 大腿骨の外旋が保てていない
だと、大腿骨の注意、つまり太ももの方向に気をつけなきゃ、と分かるし、
外旋という方向の練習が必要だと分かる。
しかも「保つ」ことがゴールだというのも伝わる。
こうやって注意されたことが聞こえれば、つまり理解できたら
レッスンで太ももの骨に意識をすればいいのかな、って分かるようになりますよね。
たとえ外旋とは何かが分からなくても、
ターンアウトを保つ筋肉が何か分からなくても。
「足を開きなさい」という注意から連想されるのは開脚で、
開脚の練習をしてもターンアウトは上達しませんよね。
このように、頭で動きを理解するのは、大人生徒だけでなく
小学校高学年や中学生以上だったら大切になってくると思います。
ただ、さっきの話のように小さい時からレッスンで単語は勉強してきていたら
自然と出来るようになってきていると思いますけどね。
ほら、レッスンで正しい腕のポジションを勉強してきていたら、
複雑なポーデブラを練習する年齢になった時に自然と出来るようになっている、みたいな感じです。
大人からバレエを始めた人は、常に気持ちのどこかで「これが限界かな?」「年かな?」と思っていることがあると思います。
しかも、学生が終ったら先生に指導を受けたり、注意を受ける体験も減りますでしょ?
なので、注意を聞いたときに、特に同じ注意を何度も聞いていると
「あーやっぱり私には無理なんだ」
とか
「この年からじゃできないわよね」
と思いやすいと思います。
でも、プロでも毎日レッスンをするように、そんなに簡単に出来るものではないという理解があるうえで、
どの方向に、何をしたらいいのか?が分かったら
よりレッスンを長く楽しむことが出来るんじゃないかなって思うのです。
特にバレエ界には、他の人が聞いたら意味が分からない言葉がたくさんあります。
- 引き上げて
- 足を回して
- 軸に座りこまないで
- 背中から腕を使って
など、何をしたらいいのか分からない注意だと、直すことも出来ません。
昔からその先生に習ってきたなら、先生の意図する事がイメージ出来るかもしれないけど
大人の場合そうじゃないものね。
このギャップを埋めるためにも、解剖学が大活躍してくれると思います。
先生が解剖学を知らないと、使えない
もちろん、今までお話してきたメリットを得るためには、
先生、注意を発する側が解剖学を知っていなければいけないですよね。
プリエとは何か?が分からない人は、プリエを指導出来ないのと同じように、
大腿骨がどういう風になるのが、タンジュデヴァンなのか?が分からなかったら
解剖学用語を使って注意する事は不可能でしょう。
でも、日本語と英語が出来ると、意思疎通が出来る人口が増えるように、
バレエ用語と解剖学用語が出来ると、注意が伝わる生徒が増えるのではないでしょうか。
東京で行われる、教師の為のバレエ解剖学講座モジュール1&2のお申込みは、
今日が最終日です。
解剖学を勉強する理由の1つに、使える言葉、つまり指導のツールを増やすという目的があるんだよという事が
今日のポッドキャストで伝わっていたら嬉しいです。
今日も最後まで聞いてくださってどうもありがとうございました。
来週は、ローザンヌ国際バレエコンクールでも足が大切だと思ってるよという話をしたいと思います。
お楽しみに!
Happy Dancing!