*このブログは2014年に書かれたものを2020年に大幅加筆修正しました。
いつもセミナーを行うときは、私も一緒に色々なことを学んでいます。
同じケガ、痛み、年齢、バレエ歴でも一人ひとりの体が違うので新しいストーリー(ケーススタディ)をたくさん聞きます。
2014年春のセミナーで学んだことのひとつは「ひよこ骨」という言葉。
聞いたことがなかったのですが、三角骨のことだそうです。
ということで、今日は一緒にひよこについて勉強していきましょう!
三角骨って何?
三角骨(さんかくこつ・Os Trigonum)というのは、距骨(きょこつ・Talus)に三角の出っ張り?余計な部分??がついている部分の事をさします。
ひよこ骨と呼ばれる理由は、このでっぱりがひよこのクチバシみたいに見えるからだそうで。
足首にこっそりとひよこを飼っている人達は結構多くて、10人に1人だそうで。
今度電車に乗った時に、一緒に車両に乗っている人達の10%がひよこの飼い主なのかぁ、と見てみてください。
世界が少し違った形に見えるかもしれません…
生まれたときからひよこと一緒、という人は少ないらしいので(そりゃそーだ、赤ちゃんの足の骨は大人と全然違うからね!)、
本人がひよこの飼い主だって自覚がない事が殆どです。
→距骨というプリエやポワントで大事な骨の説明は「プリエ使えてますか?」P40 に書いてあります。
三角骨と足首後方インピンジメント症候群
足首ひよこがいたとしても、そいつが全くもって問題にならない人達もいます。
だから三角骨=いつも痛みが出る、ではないのです。
三角骨「が原因」で痛みが出るケースを有痛性三角骨障害(ゆうつうせいさんかくこつしょうがい・symptomatic os trigonum)というそうです。
ひよこのクチバシは足首の後ろ側にあって、つま先を伸ばすとその部分が挟まるから痛いんでしょ?と思うかもしれないけれど、
本当にそれが原因かどうか?はひよこの有無だけでは分かりません。
足首の後ろ側が痛くなるケガの総称を「足首後方インピンジメント症候群(posterior ankle impingement)」というんだけど、
その原因はひよこだけではございません。
ダンサーの足首後方インピンジメント症候群の原因として考えられるものは
- ひよこクチバシ
- 内在筋と外在筋のバランスがよくない(使い方の間違い)
- 長母指屈筋の腱炎や腱鞘炎(つま先を丸めてルルベしたり、つま先を伸ばしたりする癖、腓腹筋の弱さ)
- アキレス腱炎など付近の炎症から組織が腫れて挟まる(下に補足)
- 足首の可動域が大きすぎて、コントロール出来ていない
- ポワントに乗っかってしまう、ルルベで関節に座り込む
- 膝の過伸展(脛骨と踵骨との距離でインピンジメントが起こりやすい環境を作るため)
などが挙げられます。
筋力をつけず、ギューギュー押すつま先伸ばし+ひざを押し込むストレッチなんていうのを小さいころからやっていて(関節を守る靱帯のサポートが失われる)
ポワントで踊る強さがないけど、早くからポワント履いた方がいいんでしょ?とやっている子たちは
後方インピンジメント症候群になりやすいってわけよ。
厳格に言うとアキレス腱炎は後方インピンジメント症候群には入りません。
アキレス腱は足首の後ろに挟まらないので(痛みの場所の深さも違うし)。
そしてアキレス腱炎と診断されるダンサーは日本では多いみたいだけど(セミナー参加者からよく聞く)、ダンサーに起こりやすいのは後方インピンジメント症候群のほうです。
多分、足首の後ろ側(アキレス腱のエリア)が痛いです、といったらそれ以上の診断やテストがなく
「アキレス腱炎ですね、レッスンを休んでください」
と言われてシップもらって家に帰ってくるという感じでしょう。
実際にダンサーを診る治療家・トレーナーセミナーで後方インピンジメントテストを知っているは?使っている人は?という質問に対し答えられる治療家の人が少ないのを毎回見ると、
ちょっと残念な感じがします。
話をひよこに戻して。
超!簡単バージョンは
- つま先を伸ばしたときに足首の後ろ側(特に深い部分)が痛くなる事を足首後方インピンジメント症候群と呼びます。
- インピンジメント症候群の中の1つとして、有痛性三角骨障害というひよこクチバシの問題があります。
三角骨があったら手術しないといけないの?
- つま先を伸ばすと足首の後ろが痛いです
- ずっと痛くて、少し休んでもレッスンに復帰したらまた痛くなります
- レントゲンで三角骨が見つかりました
となると、痛みの原因はひよこだ!と判断されやすいです。
ひよこさえ居なければ、痛くないはず!だったらクチバシを切ってしまえ!!と言われることがあるかもしれません。
嘘。そんな言葉遣いをする医者はないのので、手術しなければいけません、と言われる事があります。
確かに、三角骨が痛みの原因であると100%に分かっている時ならば手術しか方法がないけれど、
そこに行く前に確認しなければいけない事が沢山あります。
さっき、後方インピンジメント症候群にはこんな種類があるよ、とお話したよね?
痛みの原因がクチバシではない場合、クチバシを削っても良くはなりません。
- つま先の伸ばし方やテクニックが間違っていた場合、そっちを修正しなければ痛みは戻ってきます。
- 筋肉の弱さやバランスが悪い場合、エクササイズを行わなければ良くなりません。
特に手術で安静に、とか松葉づえとかしちゃった場合、術前よりも筋力が落ちている+体力も落ちている事になるので、かなり精密なエクササイズプログラムがないと舞台復帰は難しくなります。
- 甲が出すぎる、膝が過伸展するという、関節過度可動性の問題だったら、手術で靱帯を縮めているわけではないので、やっぱり痛みの根源は解決していません。
よって、手術前にしっかりとした診断が必要ですし、踊り方の癖やレッスンの動きを分析する必要も出てくると思います。
三角骨手術したら、バレエはできませんか?
- ひよこのせいで痛みがあると分かった場合
- 捻挫などでクチバシが折れてしまった場合
手術が悪ではありません。
ただ、いくつか考えておかなければいけない問題があります。
この写真は、三角骨除去手術をしたダンサーの足。
手術から約1年ー1年半した写真ですが、まだ傷跡が見えますよね?
このような組織の事を瘢痕組織(はんこんそしき・scar tissue)と呼びます。
外側に傷跡が見えるという事は、内側の傷跡もあるわけさ。
手術によって骨が挟まる事はなくなったとしても、カットした場所に瘢痕組織が形成され、
それがまた骨と骨の間に挟まってしまい痛くなる、本末転倒的なインピンジメントになる場合もあります。
パリ・オペラ座で踊っていたクライアントによると三角骨手術をしたのが彼のキャリア上、最大の間違いだった、と毎回治療に来るたびにぼやいています。
なぜか?というとひよこがまた生えてきたから、だそうです。
そうはいっても、この研究では手術をしたダンサー44人(54ケース・両足にある人もいたってことでしょうね)の経過はよく、
術前のダンスレベルに戻ったり、ダンサーとしてのキャリアを続けていると書いてあります。
この研究の最大の勉強点は、研究対象の人達が行ったリハビリとタイムラインが提供されていること。
リハビリプランはフェーズ1,2,3に分かれていて、長さは12週間。
素晴らしく細かくどんなリハビリを、どれだけやったか、そしていつレッスンに復帰したのか?が書いてあります。
術後4-6週間で「Dance -specific movement progressions」と書いてありますね。
つまりダンサーに特化したリハビリを行ったということ。
その後、6週間目から、それまでのリハビリ(+心肺機能やフィットネスレベルを挙げてから)レッスンに戻り始めると書いてあります。
完全復帰、と書いてないよ!
手術が必要であると判断された上で、ここまでダンスに特化したリハビリを12週間続けてくれる場所があるならば、成功率が高くなると、私はこのペーパーから読み取りました。
比較として、福岡大学医学部整形外科のサイトですと、三角骨手術の後は約1か月と書いてあります。(福岡大が悪い、良い、ではなく、検索で上位にひっかかったからだけです。)
よって、術後レッスン復帰は不可能ではないです。
ただ、手術前のダンサーへという記事で書いたように、事前にリサーチをしてダンサーのリハビリをしてくれる人が周りにいるかを確認する必要はありますね。
まとめ:三角骨関連の足首の痛みについてダンサーが知っておきたい事
- ひよこは存在します
- ひよこが痛みの原因になる事があります
- ひよこが原因ではない足首後方インピンジメント症候群の場合、手術しても意味がありません
- 有痛性三角骨障害で、手術をするならばバレエに特化したリハビリが必要です
という事でした。
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バイピヨ!
Happy dancing!