突然ですが、昨日の夜は何食べましたか?
おとといの夜は?
1週間前の晩御飯、覚えてますか?
1週間前の晩御飯はカレーをたべて、
次の日もカレーで、その次の日はカレーうどんで・・・って人と、食事日記をつけている人は置いておいて、
多くの人は1週間分の晩御飯の献立をすべて記憶してるって、できないと思います。
もし、あなたのクラスに、3年も4年もレッスンに通ってくれてて、
「いつも同じこと注意してるのに、ぜんぜんよくならないんです」
って生徒がいた場合。
「もう、言いたくありません!」ってなる気持ちは分かります。
確かに同じ注意をクラスの中でずっと言い続けるって、言ってる方にとっては苦痛ですよね。
でもね、例えば「今」の自分が生徒になったとして、
レッスンの注意を10個されたら、10個覚えておくことってできますか?
(バレエに関する)記憶力はいいほうだって勝手に思っている私でも無理です。
やろうと努力はしますよ。
でも、1個ずつ順番に直してるうちにアンシェヌマン終わっちゃうでしょ?
軸の大腿方形筋の意識を常に持っていたら、動かしている方のつま先は抜けるし、
上半身を大きく使おうとしたら、胸椎7番から動かす、っていうのが出来なくなる。
体の事を知っていて、バレエの基礎を知っている私でも、です。
だって体に入っていないから。
頭で分かっても、体で出来ないって事。
同じ注意を繰り返す
解剖学ではなくて教育法だったり、運動生理学の分野になるのかもしれないけれど、
体に覚えさせるためには繰り返しやる、というのが大事になってきます。
同じ動きを繰り返す、のではなく、その注意を何度も何度も繰り返す、ってことね。
ずっとプリエばっかりやっていたらセンターに行けなくなっちゃいます。
(体力やコーディネーション、ジャンプ力の面からバーレッスンだけでレッスンが終わっちゃうのは上達するとは言いづらいしね)
そしてバーのプリエでは出来たとしても、他の動きでは注意の応用が出来なくもなっちゃいます。
- プリエの時も同じこと
- タンジュの時も同じこと
- フォンデュの時も同じこと
- センターでも同じこと
を注意し続けて、はじめて、その子はちょっとだけ理解できます。
教師の側からしたら、ずーっと同じことを繰り返しているつもりでも、
ずっとじゃないんですよ。
だって、途中でいろんなこと言うでしょ?
ずーっと喋ってるでしょ!
- 爪先伸ばして
- 膝外に
- 内腿使って
- 股関節から回して
- 背骨を持ち上げて
- 腰椎曲がってるわよ
- 肩直して
- 肋骨閉めて
- 体引き上げて
- 音にあってない
- 今振り付け間違えたでしょ
先生って、1つのアンシェヌマンの中でたくさん言うんですよ。
だからね、生徒はわかんなくなっちゃうの。
最初の1つさえ、まだ体に入ってないんだもん。
余談。
体に入っていないなら良い方。
先生の言っている事が分からない、って子はすっげー多く、言っている本人の先生も100%は分かっていないという問題もかなり多い。
- 自分が分からないことは、指導できません。
- 間違いを指摘する際は、正解が分かっていないといけません。
文章にすると当たり前ですけど、現実は…ねぇ。
階段はひとつずつ登ること
- 漢字やる前にひらがなをやる
- ひらがなをやる前に鉛筆の持ち方を練習する
みたいな形で「ソレ」ができてないと「ソコ」まで行けない、という段階っていうものがあるンです。
赤ちゃん、いきなりスタスタ歩き出さないように、最初は手すりを持って歩くでしょ。
2段飛ばししては次に進めない、ってことね。
(体の成長過程で大事なステップ、例えばハイハイ、を飛ばすとその後の運動能力に影響しますしね)
じゃあ、どうするか?
子供達だったら、レッスンで1個だけ注意してください。
もう一度いいますよ、1個だけです。
他は言いません。
全てのアンシェヌマンでそれだけ注意し続けます。
それで「ようやく」体に入るようになってきます。
もし中高生で週に3回以上踊っているならば1個ではなく2個でもいいかもしれませんけど、
その前に、さっきお話した「積み重ね」があるかどうか?は個人差がありますからお気をつけて。
そんなんじゃ上達しない、って思いますか?
- 注意の数=上達する、ではありません。
- 本人が出来るものの数が増える=上達していく、ですよ?
バレエ学校の生徒でも、ローザンヌに出るレベルの子達でも、注意はされるんです。
そのレベルに行く前に、この世にある全ての注意事項を生徒にぶち当てるのがバレエ教師の仕事ではありません。
興味を持ってもらうために
クラスの間90分集中してる子って、多分いないと思うんです。
- お腹すいたな
- 疲れたな
- 帰ったら宿題があるんだった
的な、すぐに現実に戻ってこられるやつから、魂が口から抜けている系まで。
魂が口から抜けると、結構長い間この世にいない子もいます。
皆がプレパレーション5番しているのに、まだ突っ立ってる、みたいな。
特に子供たち、特に中学生くらいになった日本の子たちだと、すごく忙しい生活していますよね。
- 早く起きて
- 学校も忙しくて
- 友達はいっぱいいて
- LINEはやらなきゃいけなくて
- インスタのハートはつけなきゃいけないし、
- かっこいい写真は載せなきゃいけないし、
- TikTokで変な踊り、笑いを取りつつ、一応サマになっているのを選択するし。
それでも、レッスン来てくれる。
だからその子たちはすごく忙しいの。
その子たちの興味を引くのが私たち教師の仕事なので。
反抗期だろうが、魂が抜けていようが、あからさまにバレエは好きじゃないような態度をとっていたとしても、
その子に分かるように説明するのが私たちの仕事なので、それができてない時点で「指導者としての力が足りないかもよ」って思ってください。
*ここでは日本のスタジオの場合をお話しています。
バレエ学校の教師は違います。職業訓練校に来た子たちをプロの世界で通用するために育てるから。
注意は通じなきゃ意味がない!
3回同じ注意をしても、その子が正しい事が出来なかったら、その注意は効果がないんですよ。
骨盤直して、骨盤直して、骨盤直して!
…(反応なし)
それは教える側の言葉が悪いってことになります。
本人にわかるように言ってないから。
「骨盤直して」を他の方法で伝える方法を考えなければ。
- 骨盤直して、って言われても自分では直しているつもり
- 骨盤を直すってそもそも何をしていいのか分からない。
- 先週も同じことを言われたけど、その後放っておかれたから今日も嵐が過ぎ去るのを待つ。
とかね。
最後のは悲しいけれど、一番多いと思うよ。
先生がむやみやたらと叫ぶだけだから、静かに、目を合わせず聞き流せば、次のアンシェヌマンになるって分かってるとか、
先生は言葉でいうだけだけど、実際には何をしていいのか分かっていない、ってナメられているケースもあります。
ここが、語学を勉強せず留学しちゃった子が上手にならない理由の一つ。
たとえ素晴らしい、先生に教えてもらっていたとして、その人の言っている事が分からない。
素晴らしい経験を持っているプリンシパルで、踊りの微妙なニュアンスを伝えてくれようとしたとしても、
その語彙力がないから分からない。
結論。
どんなにいい先生でも、生徒に言いたいことが通じなければ、上達させられないって事。
注意を理解してもらうために
バレエ学校の場合、残念ながら注意が理解できない子=やる気がない子、とみなされて終わりです。
それは、バレエを習うって形だけを習うのではなく、
- 注意の聞き方やスタジオでのマナー、
- 群舞で踊るときのルールや
- 舞台のメイク、髪型
は知っているという前提だから。
そしてクリスティンが良く言う言葉「she was not told this」彼女は指導されてこなかった、になります。
指導者のせいであり、生徒のせいではない、ということ。
さっきの「骨盤を直して」という抽象的な注意に戻りましょうか。
同じ言葉を繰り返さなくても、同じことは説明できます。
ペットボトルを仙骨にのせてエクササイズをし、その感覚を立っても覚えておいてね、とした場合、
レッスン中に「ペットボトルのる?」と確認するだけで本人が分かります。
骨盤の前の三角形に手を置かせるとか、ウエストバンドの高さの違いを鏡を見てとか。
体で感じるっていうのはとても大事だと思う。
だけどね、ダンサーの卵だったら「正しい感覚」ってまだ育っていないんですよ。
当たり前だね、だって知らないんだもの。
- 目で見て、体で感じて、そしてそれを覚えておく。
- だから今度注意された時に、あ、その感覚だった!って思い出せる。
- そのうち、それが勝手に身につく。
この階段が欲しいんだよね。
覚えておいてください。
- 新しいステップが入った場合
- 新しい振り付けの場合
- 新しい音楽の場合
ダンサーが考えなければいけないのは先生の注意「だけ」ではありません。
だからこそ、注意を絞る。
そうすれば安全に、手っ取り早く、そして指導者の声帯を守ったままで上達します。
レッスンプランを立てるのはそのため。
- このステップは初めて出てくるから、今週はバーを使って動きに慣れる
- 来週はこのステップをセンターでもやってみる
- 再来週は振り付けをもう少し難しくしてみる
のように、どんな階段を登るのか?をデザインしてレッスン指導をしていかないと
- 基礎が身につかないからケガが増える
- 上手にならないからつまらない
- 先生にいつも同じことを言われて、バレエに興味がなくなる
スタジオを辞めてしまいますよ。
バレエレッスン以外で、注意を攻略する
エクササイズをしながら、バレエの先生が言っている注意を考える時間を持つ、というのは非常に大事な事です。
振付なし、大幅な重心移動なし、表現力を考える必要も、ステージの方向を考える必要もないときに、
- 骨盤をまっすぐにする感覚
- 骨盤をまっすぐにしたままで脚を動かす感覚
- 骨盤が曲がってしまった時の感覚
などを覚えておいて、
じゃーバーレッスンでもやってみよう、って出来るよね。
たとえ、バーですぐに出来なくても、「あの感覚覚えてる?」「このエクササイズで使った筋肉の場所覚えてる?」といわれた方が
「骨盤直して」って言われるよりダンサーは分かりやすいと思いませんか?
レッスンでの注意はコミュニケーションです。
言う方も、言われる方も同じ理解がないと会話になりません。
なのでダンサー自身にエクササイズクラスを受けてもらったり、解剖学を勉強してもらうことで
彼らの語彙力を育てるっていうのもいいアイデアかもしれませんね。
*ただし、「正しく」バレエを分かっている人のエクササイズクラスに限る。
そうじゃないと、混乱が増すだけです。
もちろん、語彙力というのは先生にも言える事。
体の構造や、解剖学を理解することでスタジオ内で使える言葉の数を増やしてくださいね。
あの子は何度いっても直してくれない!!って生徒を見る前に、どうやったらその注意が届くのか考えるきっかけになったら嬉しいです。
Happy Dancing!